ロシアから救いの手を差し伸べられたザウバー。その詳細と、来季ドライバーとして浮上したロシア人、セルゲイ・シロトキンの存在はF1界をアッと驚かせた。
F1解説者のアレクセイ・ポポフは、『Basler Zeitung(バスラー・ツァイトゥング)』紙へ次のように語っている。「(声明文を)何度も読み返して、ようやく話を信じたよ」
もっと疑(うたぐ)り深い人たちは、今もまだ半信半疑だ。
ザウバーの記者発表で名が上がっている団体は、とっくの昔に解体したKGB(ソ連国家保安委員会)との結びつきが報じられるくらいで、実態はほとんど知られていない。
この提携に伴って17歳という若さのシロトキンが来季F1デビューしそうだが、これもまた普通ではない。
「まず、セルゲイとその関係者には頑張って欲しいわ」と語るのは、元F1ドライバーであるビタリー・ペトロフのマネジャーをしていたオクサナ・コサチェンコだ。
「でも、彼はまだF1ドライバーではないの。いずれ実行される約束には違いないけど」
ところがドイツ『Bild(ビルト)』紙によると、ロシアからザウバーには、まだ「ビタ一文」も送金されていないという。
かつてシロトキンならびにその支援者と手を組んでいたチームの代表を務めるアンドレアス・イェンツァーは、シロトキンらとの提携はすべて順調だったと次のように『Tages-Anzeiger(ターゲス・アンツァイガー)』紙に話している。
「ロシア人支援者と最初に接触したのは、2008年のことだった。私も最初は少し警戒していたよ」
「しかし、関係のあった数年間、悪い経験をしたことは一度もないね」
どうやら多くはシロトキンが来季、F1デビューできるかどうかに掛かっているようだ。金曜日午前のフリー走行を含むテストの行方次第というところか。
シロトキンの実力を疑問視するのは、ドイツ人F1解説者のクリスチャン・ダナーだ。「残念ながら彼の運転スキルは、とうていF1ドライバーのレベルに及ばないね」
レッドブルのアドバイザーであるヘルムート・マルコは、シロトキンが参戦中のフォーミュラ・ルノー3.5シリーズでの走りについてもっと詳しい。
「セルゲイは現在、ランキング中位にいる。それほど悪いドライバーの印象は受けない。グティエレス(エステバン・グティエレス/ザウバー)よりはマシだよ」
「しかし、プレッシャーにさらされた時、どう対処するかが問題だね」
シロトキンにとって一番の課題は、F1参戦に必要なスーパーライセンスを取得できるかどうかだ。マルコの意見はこうだ。「スポンサーが付いているからといって、ライセンスは金で買えないからね!」
ロシアとの提携は、生き残りに必死なザウバーのあがきと見る向きもある。
ザウバーに車両パーツを納入するスイスの某サプライヤーは、去年12月から一銭も代金を受け取っていないと『Aargauer Zeitung(アールガウアー・ツァイトゥング)』紙に語っている。
あるスイスのマスコミは、こんな調子だ。「ザウバーが(ロシア人と)手を組まなければならないのは残念だ。それでもチームをたたむよりはいい」
『Speed Week(スピードウィーク)』は、ザウバーとロシア人の提携は悪い話ではないとしている。「ガスプロム社を皮切りに、ロシアから普通のスポンサーが付くのも時間の問題だ」
F1のボス、バーニー・エクレストンもザウバーとロシアの提携を喜ぶひとりだ。おまけに、下位集団のひとつマルシャがフェラーリとエンジンの長期契約を結んだニュースも16日(火)に流れている。
「私は、ザウバーとマルシャがF1を続けられてうれしいよ」と、『Blick(ブリック)』紙に話すエクレストン。
「だが実際のところ、それらのチームが経済的にどれほど深刻な状態だったのか、私には分からない」
またエクレストンは、ザウバーの契約にはウラジーミル・プーチン露大統領も賛成していると、次のように話す。
「彼(プーチン大統領)とはモスクワで3度ほど会った」と、エクレストン。「大統領は非常に熱心で協力的だ。F1全体にとってプラスとなるだろう」