予測不能の展開が続く2012年シーズンは、スペインGPで“奇妙な”ものになった、と母国グランプリでパストール・マルドナード(ウィリアムズ)に次ぐ2位表彰台に立ったフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)が語っている。
当初は持参金でレースシートを手に入れた“ペイドライバー”にすぎないと見られていたマルドナードだが、スペインGPでポール・トゥ・ウィンを決めた彼をフランスのコメンテーターであるパトリック・タンベイは「新たなチャンピオン」と絶賛した。
ベネズエラ出身のマルドナードに、2012年のチャンピオン候補になりえるかと聞く報道陣も、にわかにはマルドナードが優勝するなんて考えていなかっただろう。
「この週末は、本当に奇妙に思える結果をいくつも見たね」と、母国でのレース中に一時は優勝を狙えるのではないかと思わせる走りしたアロンソが語っている。
スペインGP開幕前から、今季は波乱の展開が続いていた。マクラーレン、フェラーリ、メルセデスAMG、レッドブルの4チームがそれぞれ1勝ずつを手にしているのだ。その大きな理由は公式タイヤサプライヤーであるピレリのタイヤが容易な理解を拒むシロモノであるためだ。
マルドナードがF1初優勝を果たしたスペインGPを終え、2012年シーズンは開幕5戦で5人の勝者が生まれた。これは、1983年シーズン以来、29年ぶりのことである。
「あるレースでトップを走っていたチームが、次のレースでは突然10位に転落する。なんだかちょっと、変な状況だね」と、アロンソと同様に今季の混戦ぶりに奇妙な印象を受けているのは、2007年のチャンピオンであるキミ・ライコネン(ロータス)だ。ライコネンはスペインGPで、アロンソに続く3位表彰台にあがっている。
スリルを求める多くのファンが前例のない混戦ぶりに大喜びする中、コアなファンはエンジニアたちと同様に頭を抱えていることだろう。
この大混戦を楽しんでいるかと尋ねられた2005年、2006年のチャンピオンであるアロンソは、「分からない。なんて答えればいいのか、分からないよ」と応じている。
その一方で、混戦模様はスポーツにとっていいことであるが、チームとドライバーは大海に投げ出されたような気持ちだろう。
「残り7周というときに、縁石に乗ってしまったと思ったら突然グリップを失ったんだ。クルマにダメージがないかどうか、思わずピットに無線で確認したよ」と、マルドナードを1秒以内まで追い詰めながらも終盤に、タイム差を広げられてしまったアロンソはそう話している。
2012年の混戦について、アロンソと同郷のハイメ・アルグエルスアリは確固たる意見があるようだ。
「ここ20年のF1を象徴するようなシーズンだね。つまり、ドライバーの真の実力、特にタイヤの扱いのうまさが試されるシーズンなんだ」と、昨年までトロ・ロッソからF1に参戦していたアルグエルスアリが『AS』紙に語っている。
「僕が思うに、今季は何十年ぶりかの最高のF1シーズンだよ。そのとき、一番強いドライバーが勝利している」
2年連続ワールドチャンピオンとして今季に挑んでいるセバスチャン・ベッテル(レッドブル)は、アルグエルスアリではなくアロンソに同調を見せている。
「3週間前は、ウィリアムズはまったく上位にいなかった。けれど、今回彼らはライバル全員をねじ伏せたんだ」
レッドブルのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコは『Kleine Zeitung(クライネ・ツァイトゥング)』紙の取材に次のように答えている。「(この混戦の)理由が分かればいいんだが」
強さの秘密はタイヤをいたわる走りであると考えられている。しかし、現役F1ドライバーの中で最もタイヤに優しいドライバーとして知られるジェンソン・バトン(マクラーレン)はスペインGPで活躍できなかった。
タイヤに優しい走りの秘けつを尋ねられたバトンは、「努力して、そうしてきたからだ。でも、今はその走りは何の意味もなくて、その理由が分からない」と答えている。
中国GPの勝者ニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)は「僕たちがトップにいたのはたった2戦前のことなのに、今は全てが変わってしまった。F1に一体何が起きているんだろうね?」とドイツ語圏の報道陣に語っている。
純粋にスポーツとしてみれば、2012年シーズンは魅力的なシーズンだ。
「今季は、シーズン終了間際までし烈な戦いが続くだろうね。誰が勝ってもおかしくないよ」と、ロメ・グロジャン(ロータス)が『RMC Sport(RMCスポーツ)』に語っている。