このほどF1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)が、今季大きな話題となっている新世代F1マシンの“ポーポイズ現象”改善のための計画を発表したことで、今週末にF1カナダGPが開催されるジル・ビルヌーブ・サーキットのパドックには複雑な心境が入り乱れているようだ。
今年のF1マシンはシャシー自体がダウンフォースを生み出す“グラウンドエフェクト効果”を持つものとなっている。だが、その副作用的な現象として起こっているのが、高速走行時にマシンが大きく上下に振動する「ポーポイズ現象」だ。
そして、FIAは、医師とも相談した結果「ドライバーの安全のため」に2022年型F1マシンのフロアの「デザイン」と「摩耗の観察」をチェックする技術的な指示を出したことを発表。また、許容されるバウンド量に「量的制限」を設けるという動きもあるようだ。
■全ドライバーが不満を持っているわけではないとラルフ・シューマッハ
こうした動きを受け、元F1ドライバーのラルフ・シューマッハは、母国ドイツの『Sky Deutschland(スカイ・ドイチュランド)』に次のように語った。
「FIAがどのようにこれを行うつもりなのか、私には分からない」
「しかし、あるチームがよりよく解決し、別のチームがまずい解決策をとったからといって、すべてのマシンとすべての空力的アプローチに対して同じ方式を採用することはできない」
「それに、いい仕事をした人たちを罰するようなことをするわけにはいかないよ」
「ルイス・ハミルトン(メルセデス)とピエール・ガスリー(アルファタウリ)は文句を言っていた。だが、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が何か言ったという記憶はないよ」
■ミック・シューマッハは力関係の変化も期待
しかし、ポーポイズ現象の大きさに不満を示しているドライバーの中には、ラルフの実の甥であるミック・シューマッハ(ハース)も含まれている。
23歳のミックは今回のFIAの発表について次のように語っている。
「体に跡がつくほどひどいんだ」
「FIAが僕たちの安全と健康を守るために対応してくれたことをうれしく思っているよ」
「この対策によって中団での力関係が変わるかどうかが興味深いところだね」
■こういうケースには疑惑がつきまとうものだとハースのボス
一方、そのミックのボスであるハースのチーム代表ギュンター・シュタイナーは、FIAが何らかの行動を起こす必要があったことは認めているものの、そこには問題があるのも事実だと考えている。
「今シーズン中に技術的な変更を行うのは常に難しいことなんだ」
「パワーバランスに影響を与えることは避けられないし、それがフェアかどうかという疑問も出てくる」
「もちろん、それは安全のためだ。だが、単に何人かのマシンの車高を上げるだけで修正できたはずだよ」
シュタイナーは、今回FIAが腰を上げた背景には、7度のワールドチャンピオンであるハミルトンとそのチームメートであるジョージ・ラッセル、そしてメルセデスのチーム代表を務めるトト・ヴォルフによる声高なロビー活動が効果を発揮したに違いないと考える者が出ても不思議ではないと考えているようだ。
「F1では、こういうケースには常に疑惑がつきまとうものだよ。その裏には何かあるんじゃないかと考えてしまうからね」
そう語ったシュタイナーは次のように付け加えている。
「しかし、今回のケースについてそのように考える人は、少し行き過ぎだと私は思うよ」。