2017年シーズンのF1マシンは、シャシーやタイヤのレギュレーションが大きく変更され、昨年までよりも1周あたり4秒から5秒のスピードアップが可能となると言われている。
ダウンフォースが増大され、幅広のタイヤが装着されることにより、最高速度に関しては逆にこれまでよりもわずかにスピードダウンすると考えられているものの、コーナリングスピードが向上し、ブレーキングゾーンもこれまでよりも短くなるため、ドライバーへの身体的負担はかなり大きくなるはずだ。
そのため、ドライバーたちは2017年型F1マシンに対応するため、特に首の筋肉を鍛えるための特訓を行ってきていると伝えられている。
だが、その2017年仕様F1カーに関して疑問の声をあげている者もいる。その1人が、これまでマクラーレン、トロロッソ、マノーで活躍したベテランF1カー設計者のルカ・フルバットだ。
フルバットは、今回のレギュレーション変更によってトップチームとその他のチームの差がさらに開いてしまうのではないかとの懸念を抱いている。
■今年はチーム力の差がさらに拡大?
フェラーリを中心としたジャーナリスト活動を行っているイタリアのレオ・トゥッリーニの取材を受けたフルバットは、その理由を次のように述べている。
「とりわけ、メルセデスAMGとレッドブルはこれまで、彼らほどの人材などを持たないライバルチームたちより常によいシャシーを製造してきていたからね」
F1公式タイヤサプライヤーであるピレリが今季から導入する幅広タイヤによってメカニカルグリップが向上するのは確かだろう。だが、一方でより大きな空気抵抗を生むことになるため、空力処理への対応力に優れたチームが有利となるだろうとも言われている。
「より大きなダウンフォースを生むクルマでは、グリップもさらに高くなる。それはチームによる違いをさらに大きくすることにつながるだろう。誰もがそれとは逆のことを望んでいるとしてもね」とフルバットは付け加えた。
■今年も物を言うのはパワーユニットの性能差?
フルバットはさらに、2017年はこれまでよりも空力の重要度が増すことになるとしても、複雑なハイブリッドシステムであるパワーユニットの性能差が勝敗を決めるという状態が今年も継続されるのではないかと次のように続けた。
「我々がいい方向に変化するとは思えないんだ」
「実際のところ、私は反対のことが起こるのではないかと思っているよ。2017年のクルマは1周のうちアクセル全開でいける割合が高くなるだろう。だから大きなパワーを持つチームの利益が増えるだけなんだ」
■F1もWECのやり方をまねるべき?
これまでよりもコーナリングスピードが増し、ブレーキングゾーンは短くなる2017年のクルマでは、これまで以上に追い抜きが難しくなるだろうと予想しているF1関係者も多い。フルバットはそれに加え、アクセル全開率が高まることによって、ドライバーはこれまで以上に燃料をセーブしなくてはならない状況に置かれるだろうと考えている。
「新しいレギュレーションを批判したいと思っているわけではない。だが、私は客観的データと試算の結果を見てそう言っているんだ」
「私の意見だが、エンターテインメント性とスピードには直接的な関係はないと思う。例えば、ムジェロ(イタリアのトスカーナ州にあるサーキット)で行われるMotoGP(世界二輪選手権)はF1よりも25秒も遅い。だが、MotoGPのレースが見劣りするとは言えないからね」
フルバットは、F1をさらに改善するためには、現在WEC(世界耐久選手権)が取り入れているやり方を参考とすべきだろうと語っている。WECではライバルチームのクルマと基本的に違うコンセプトでクルマを設計できる自由度が高くなっているためだ。
■2017年はメルセデスAMG対レッドブルの構図に?
そうしたことを受けて2017年のF1チームの力関係はどうなると思うかと質問されたフルバットは、「私はメルセデスAMGとレッドブルが勝利を争うことになると予想しているよ」と答え、次のように続けた。
「レッドブルはこれまでエイドリアン・ニューイ(最高技術責任者)のリーダーシップのもとに素晴らしいシャシーを製造してきた。一方、メルセデスAMGのクルマは最強エンジンとともに全体的に非常にバランスが取れている」
「だが、私もいくつか驚くようなことが起こる可能性があることは認めるし、それによって変化が生じるかもしれないね」
最後に、フェラーリに関して質問されたフルバットは、次のように締めくくっている。
「予想めいたことをするのは控えたいが、昨年のトップチームの順位変動を見ればおのずと結果は見えてくるだろうと確信しているよ」