アメリカメディア界の大物であるジョン・マローン率いるリバティ・メディアがF1の新オーナーとなることが明らかとなったが、実際に新オーナー体制でのF1運営が開始されるまでにはまだ解決しなくてはならない問題がいくつか残されているようだ。
■立ちはだかる2つのハードル
その中でまずクリアしなくてはならない大きなハードルが2つある。
ひとつは、F1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)の承認を得るということだ。
FIAの会長を務めるジャン・トッドは今回のF1買収問題に関して声明を発表しているが、その中で素晴らしい企業による「長期的投資」は歓迎するものの、FIAとしてはこの買収取引によって「どういう結果がもたらされるのか」ということに関して「さらなる情報」が必要だと考えていることを明らかにしている。
■懸念されるFIAの「利益相反」問題
もうひとつ越えなくてはならないハードルは、欧州委員会だ。
まず、今回の株式譲渡そのものには問題がないため、欧州委員会がそれを承認しないということは考えられない。だが、F1ビジネス記者として知られるクリスチャン・シルトは今回のF1株式譲渡によって「利益相反」が起こる可能性を指摘している。
それは、FIAが買収の承認組織であるとともに自らが1%のF1株主でもあるため、この取引によって利益を手にする可能性も持っているからだ。
あるF1関係者は、『GMM(グローバル・モータースポーツ・メディア)』に対して次のように説明している。
「簡単に言えば、現在の状況においてはFIAが(F1の)株主であってはならないというのが答えだ。そうすることによって利益相反が生まれてしまうからね」
「だが、FIAが1億ドル(約102億円)もの資産を放棄するなど考えられないと思うよ」とその関係者は付け加えた。
■これ以上悪くはならないとドイツ・モータースポーツ連盟会長
しかし、今回のCVCからリバティ・メディアへのF1株式譲渡に関しては、全体的には歓迎する声が多いのも事実だ。
ドイツ出身の元F1ドライバーであり、現在はドイツ・モータースポーツ連盟の会長を務めるハンス・ヨアヒム・シュトゥックは、『SID通信』に次のように語っている。
「我々は誰もが、このスポーツを以前のようにもっと高いレベルにするために何かをしなくてはならなかったのだと分かっている」
「新たな投資家がどういう手を打とうが、これまでよりも悪くなるはずはないよ」
メルセデスのディーター・ツェッチェ会長もリバティ・メディアのF1参入を歓迎していると伝えられている。ツェッチェは、今回の買収契約は「リスクよりもチャンスのほうが多い」と語っている。
■F1のアメリカ化を懸念する声も
だが、新たに21世紀フォックスのチェイス・キャリーを新会長に迎えることで、リバティ・メディアが今のF1をもっと「アメリカ化」しようとするのではないかとの懸念を抱く者もいる。
こうした意見があることに関して、キャリーは『Bild(ビルト)』に対し「すでに確立された市場がF1にとっての家であり基盤であり、とりわけヨーロッパがそうであるということを指摘しておきたい」と語り、次のように付け加えている。
「現在の基盤のもとにヨーロッパでこのスポーツを成長させることが最優先されるべきだ。より長期的にはアメリカやアジアでもそのチャンスをうかがうことになる。だが、それは簡単にできることではない」