マクラーレンは、22日(日)にF1公式シーズンテストが行われていたバルセロナで発生したフェルナンド・アロンソのクラッシュに関し、予期せぬ突風が引き起こしたものであり、「通常のクラッシュ」であるとの説明を行った。
だが、アロンソが事故から4日目を迎えた25日(水)にもいまだに病院にいるという事実もあり、この事故に関するうわさがいまだにF1界にまん延している状況だ。
多くのF1関係者は、マクラーレンがアロンソの事故についての声明を出すまでに28時間もかけたことに加え、その中で、あれはまったく「普通の事故」だったと主張していることに対して懐疑的だ。
事実、アロンソは事故直後には意識を失い、病院までヘリコプターで緊急搬送されるという事態となっていた。マクラーレンでは、アロンソはすべての検査で問題ないと診断されたと主張しているが、通常、そうした診断が下されたドライバーがその後も数日にわたって入院が続くケースはあまりない。
■いくつかの証拠はマクラーレンの説明と矛盾
さらに、マクラーレンが行った事故の説明に関しては、すでに示されたほかの証拠写真や証言とは大きく食い違っている。
例えば、コース脇で撮影を行っていたカメラマンのジョルディ・ビダルが公開した写真には、突風によってコントロールを失う前にアロンソがコース外側の人口芝の上に乗ってしまったというマクラーレンの説明とは矛盾する状況が映されていたという。
さらにビダルは、アロンソが事故を起こしたときにはマクラーレンが説明したような突風などは吹いていなかったと主張。アロンソの後ろを走っていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が語ったように、そのときアロンソはフルスピードでの走行は行っていなかったと証言している。
ベッテルはそのときの様子を「速度は遅かったよ。恐らく、時速150kmくらいじゃないかな。そうしたら彼が右に曲がって壁に突っ込んだんだ。あれは奇妙だった。(普通の)事故のようには見えなかったよ」と語っていた。
スペインの『La Gazzetta dello Sport(ガゼッタ・デロ・スポルト)』は、あるF1エンジニアの次のようなコメントを紹介している。
「F1のダウンフォースの観点からは、マクラーレンの説明は納得のいくものだ。もし彼が(カルロス)サインツ(トロロッソ)と同じように激しく攻めていたとすればね」
「だが、アロンソはあのときそれほどスピードを出していなかったと思う。事故の直前に撮影された写真によれば、彼はコースの中央を走っていたからね」
■事故直後にはアロンソに意識があったとの証言も
アロンソとは彼のF1キャリアを通じて密接な関係を築いてきた元F1チーム代表のフラビオ・ブリアトーレは、今週イタリアのメディアに対し、アロンソがあの事故に関しては何も覚えていないことを明らかにしていた。
スペイン出身の元F1ドライバーであるペドロ・デ・ラ・ロサは、24日(火)にバルセロナ総合病院に入院中のアロンソを見舞っている。だが、彼は一切のコメントを拒否したと伝えられている。
一方、アロンソのマネジャーであるルイス・ガルシア・アバドは、スペインの記者たちに、アロンソは事故の衝撃で一瞬気を失っていたと語った。
だが、『La Gazzetta dello Sport(ガゼッタ・デロ・スポルト)』は、マクラーレンのメカニックに取材した内容を元に、アロンソは事故後すぐに気を失ったのではなさそうだと報じている。
その記事には、マクラーレンのメカニックの次のような言葉が引用されている。
「彼ら(エンジニアたち)がフェルナンドに呼びかけたんだ。だけど、奇妙な、弱々しいうめき声が無線を通じて聞こえてくるだけだった。そして最後のうめき声の後は何も聞こえなくなっていたよ」
■正しい情報の開示を求める元F1ドライバーたち
かつてマクラーレンで活躍した時期もある元F1ドライバーのマーティン・ブランドルも、今回のマクラーレンの説明には眉(まゆ)をひそめている。特に気になったのは、マクラーレンが、コントロールを失ったアロンソがダウンシフトを試みていたと説明している部分だ。ブランドルは、それは「普通では考えられない」と語っている。
ブランドルは、ツイッターを通じて次のように続けた。
「F1で起きた事故としては比較的軽いものに見えるが、それなのに入院が必要だというのも奇妙だ」
こうした状況を受け、元F1ドライバーのイヴァン・カペリも、チームはもっと正確な情報を提示する必要があると訴えている。
「何やら変なことが起きているね。だが、F1ではしばしば沈黙が起こる」
「何が起こったのかということについての答えが示されるべきだ。そうでないと、新しいシーズン開幕を迎える前なのに、ドライバーたちも落ち着いていられないよ」とカペリは主張した。
■オンボード映像が公開されないのはなぜ?
『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』のベテラン記者であるミハエル・シュミットも、なぜマクラーレンがアロンソのクルマに搭載されていたカメラの映像を公開しないのかという疑問を呈している。
それだけではない。テストが行われたバルセロナ-カタルーニャ・サーキットにもたくさんの監視カメラが備えられており、サーキット上での出来事を克明に記録していたはずだ。
「だから、あの事故を映した映像もあるはずだ」とシュミット。
「もしあるのなら、なぜその公開が控えられているのだろう?」
『Sport Bild(シュポルト・ビルト)』の記者として知られるラルフ・バッハも、『f1-insider.com』の自身のブログの中で次のように語っている。
「FIA(国際自動車連盟)の職員たちは日曜日(22日)の夜にすごく奇妙な態度を示していた。テストに関してはFIAの責任で行われているものではないのにね」
ブラジルの『Globo(グローボ)』のベテラン記者であるリビオ・オリッキオは、マクラーレン・ホンダ、あるいはFIAが、アロンソがERS(エネルギー回収システム)の不具合によって感電したことを隠そうとしているのではないかとの仮説を立てている。
「もし、FIAがアロンソに起こったことを認識していながら、もし、ほかのドライバーにも同じようなことが起こった場合にF1がどれほどのダメージを受けるか想像してみるといい」とオリッキオは書いている。
一方、スペインの『AS』は、アロンソは25日(水)には退院できるだろうと報じている。
その翌日の26日からはシーズン前最後のテストが同じバルセロナで行われるが、アロンソがそのテストに参加できるかどうかはまだ不明だ。