ミハエル・シューマッハ(メルセデスAMG)について質問されたピレリのモータースポーツ責任者ポール・ヘンベリーの顔に、緊張の色が浮かんだ。
バーレーンGP終了後、7度もF1世界選手権を制したシューマッハはピレリタイヤを酷評していた。2012年のタイヤは性能がすぐに低下してしまうため、セーフティカー並の速さでしか走れないというのだ。
「あれから彼と話をしていない」
「チームメートのニコ・ロズベルグがタイヤについて話しているのをネットで読んだけれど、かなり印象が違う感じだね」とヘンベリーは『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』に話している。
シューマッハの批判に対していら立ちを感じるか質問されたヘンベリーは、こう答える。「われわれは、頼まれたとおりにタイヤを作っただけだ」
「国際自動車連盟(FIA/統括団体)もバーニー・エクレストン(F1最高権威)も、それにどのチームも望んだ結果がこれだ。当時、チーム側を代表していたのがシューマッハのボスであるロス・ブラウン(メルセデスAMGチーム代表)さ」
「ここまで4戦して勝者が4人。この事実ひとつとっても、われわれがやったことは正しかったんじゃないかな。もしわたしがF1ファンだったら、大いに喜ぶところだ」
では、シューマッハは何を焦っているのだろうか。ヘンベリーは分析する。
「4人の勝者が生まれたのは、偶然じゃない。どのレースでも彼らはチームメートより速く走り、勝つべくして勝ったんだ」
「ミハエルがバーレーンで焦りを募らせたのは理解できる。レースで勝った4人のうちドイツ人は2人。しかもバーレーンでは、同じF1復帰組のキミ(ライコネン/ロータス)が復帰4戦目にして表彰台に上ったんだからね」
「レーサーは勝つことしか考えない。勝たなきゃ腹が立って当然さ」
今年はマシンやドライバーよりタイヤが鍵との意見もあるが、これにヘンベリーは反論する。
「それはお門違いだよ。やはりドライバーの影響は絶大だ。どうせ遅くとも、イギリスGP(7月8日決勝)までにはどのチームもタイヤの問題を克服するよ。去年がまさにそうだった」
最後にヘンベリーは『Bild(ビルト)』紙に、何があっても条件反射的な行動はしないのがピレリだと次のように語った。
「ひとりのドライバーから文句が出ても残りの23人がハッピーなら、われわれが何かを変えなければいけない理由は何もないね」
もっとも、タイヤに不満を感じているのはシューマッハだけではない。フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)は次のように『La Stampa(スタンパ)』紙へコメントする。
「トップチームにとっては、少しばかりイライラの種かな。イザという時にタイヤの性能をすべて出すのが難しいんだ」
「サッカーに例えると、レアル・マドリーやバルセロナ、それにACミランがいきなりチェゼーナ(イタリアでセリエAとBを行ったり来たりするクラブ)並みの小予算に縛られながら戦う感じかな」