昨年まで4年連続でF1チャンピオンに輝いたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)だが、今シーズンはここまで思ってもみなかった不調に陥っている。その原因のひとつが、度重なるマシントラブルだ。
中国GP(第4戦)後に、別のシャシーに交換して臨んだスペインGP(第5戦)では電気系トラブルや、ギアボックストラブルが発生。決勝ではシャシー交換の効果もあってか14番手スタートから4位に順位を上げる好走を見せたものの、先週末に開催されたモナコGP(第6戦)では再びトラブルに見舞われた。予選ではERS(エネルギー回生システム)に問題が発生。決勝ではターボにトラブルが発生し、レース序盤でのリタイアに終わっている。
「ターボエンジンのブースト圧が無くなったら、それはもうターボエンジンじゃないよね」
レース後、ベッテルはドイツのメディアに対してそう冗談を言うほかなかった。
先週末のモナコGPは、実はベッテルにとってレッドブルでの100戦目に当たる区切りのレースだった。しかし、わずか5周でレースを終えることとなったベッテルは、早くモナコから立ち去りたいという気持ちでいっぱいだったようだ。
「ここから去るにはどうすればいいのかな?」
記者たちにそう尋ねたベッテルは、またもやいつものように冗談で記者たちを笑わせていた。
「僕はボートを持っていないんだよ!」
だが、レース中にトラブルが発生したとき、ベッテルがどれほどいらだっていたかは、そのときの無線交信からも明らかだった。
「なんとかしてよ」、「できることはすべてやってくれっていう意味だよ」、とベッテルはピットウォールに呼びかけていた。
一方、昨年限りでF1を引退したマーク・ウェバーに代わって新たにベッテルのチームメートとなったダニエル・リカルド(レッドブル)は、序盤こそ順位を下げたものの、その後安定した走行を続け、スペインに続き2戦連続で3位表彰台を獲得。躍進めざましいリカルドは、いまやベッテルがレッドブルのナンバー2だと思えるような活躍ぶりだ。
だが、元F1ドライバーであり、現在は解説者を務めるマーティン・ブランドルは、ドイツの『Die Welt(ディー・ヴェルト)』に次のように語った。
「すべてのチャンピオンは、どこかの時点でこういう段階を経験するものなんだ」
「まるで彼(ベッテル)はマーク・ウェバーのクルマを引き継いだかのように見えるね」
ブランドルはそう付け加え、昨年まではウェバーのクルマばかりにトラブルが発生していたことを引き合いに出した。
ベッテルもこれを認め、「常に何かが違うし、うまくいかないんだ。でもこれが永遠に続くことはないよ」と語っている。
メルセデスAMGの非常勤会長であるニキ・ラウダも、四面楚歌(そか)の状態に置かれたベッテルに同情気味だ。
「チームが復活を目指して懸命に頑張っているときにはこういうことも起こるものなんだ。だが、不運なことに、それはいつもセバスチャンのほうに起こっているね」
ドイツのテレビ局『RTL』にそう語ったラウダは、「物事がうまくいかないときは、どうしようもないものさ」と付け加えた。
ドイツの『DPA通信』は、「こんな日もあるさ。また次があるよ」とベッテルが語ったと報じている。だが、このときベッテルは少々下品な言葉を用いており、その一部は伏せ字とされている。