技術規則の大変更に伴い、2014年は環境にやさしくより「静かな」F1になるといわれるが、やはり大音量の迫力は捨てきれない。
空気を切り裂くようなサウンドのV8自然吸気エンジンは、11月の最終戦F1ブラジルGP決勝チェッカーをもって姿を消し、来季はV6ターボエンジンに取って代わる。V6ユニットから発するくぐもったノイズは、各エンジンメーカーによってすでにネットで公開済だ。
音色の受け取り方は人によってさまざまだが、まるで高回転の掃除機と形容する者もいる。
フェラーリのチーム代表、ステファノ・ドメニカリはF1インドGPで次のように話す。「うーん、確かにエンジン音はF1でとても重要な要素だ。それは間違いない」
ドメニカリのようなF1のベテランだったら、フェラーリV12のソプラノ音をよく覚えているはずだ。そんな時代からやがてエンジン型式はV10、V8へと変遷を遂げた。
モータースポーツ関係者か否かにかかわらず、多くの人々がF1の大きな魅力であるエンジン音が多少なりとも損なわれるのではないかと心配しているのは、ドメニカリも把握している。
「V6エンジンにターボを付けたら、あとの課題は音質の細かな調整だ。ショー的な要素は、やはり欠かせないよ」
「環境」重視の新F1でもエンジン音は迫力あるものにしようと、どうやら各メーカーは苦心している様子だ。長年フェラーリからパワーユニットを購入しているザウバーのボス、モニシャ・カルテンボーンは、不評のエンジン音についてインドGPで質問されると、次のように答えている。
「私は固く信じている。フェラーリがその問題を解決してくれるとね」
フォース・インディアはメルセデスからエンジンを調達している。チームオーナーのビジェイ・マリヤは次のように話す。「私は多くのF1ミーティングに出席したが、バーニー(エクレストン)はことあるごとに、エンジンノイズで妥協することがあってはならないと、しつこく念押ししていたよ」
メルセデスAMGのロス・ブラウンも、ネットで公開されているエンジン音をあまり気にしないよう、次のようにファンに呼びかけている。
「ダイノ(動力計測機)につながれたエンジンのノイズが、そっくりそのままサーキットで聞かれると思わないほうがいい。サーキットで走行してみて、初めて分かるんだよ」
その一方で、FIAはまったく新機軸のモータースポーツ新シリーズ、フォーミュラEを2104年に発足させる。表向きは単座席のフォーミュラカーでも動力は電動モーターで、開催はもっぱら市街地コースというざん新さだ。F1で4度の世界タイトルを持つアラン・プロストもチームオーナーとしてかかわるという。
フォーミュラEに「聴く」といった要素はなく、もっぱら視覚が勝負のモータースポーツだ。
「僕は全然(フォーミュラEを)気に入らないねえ」と話すのは、インドGP予選でポールポジションを決め、F1ドライバーズ世界選手権4連覇達成を果たしたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)だ。
「人々がF1を見に来るのは、自分の五感を刺激したいからだろ? なのにマシンが通り過ぎたら感じるのは風切り音だけなんて味気なさすぎるよ」
「僕の考え方が古いかもしれないけど、やはりF1は耳をつんざくようなノイズだよ。とにかくうるさくて、鼓膜が震えるような感覚がないとダメだ」
「僕は、生まれて初めてF1を見に行った1992年のホッケンハイム(ドイツGP)を今も覚えている。ドイツの黒い森を駆け抜けるF1マシンのエンジン音は、もうたまらなかったよ。地面から伝わってくるんだからね」