バジェットキャップと呼ばれるF1チーム予算上限ルールをめぐる議論が、今後もしばらくは続くことになりそうだ。
F1では、チーム間の力関係をより均等化するため、年間に使える予算の上限を定め、それを厳しく管理することがルール化されている。そして、その予算上限値は毎年引き下げられていくことになっている。
そして、昨年は1億4500万ドル(約184億円)が上限として定められていたが、今年はそれが1億4000万ドル(約178億円)に引き下げられている。
ところが、その後ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、それに伴って世界的にインフレ傾向が生じてきており、F1では特に輸送コストや材料費の高騰に苦しめられるようになっている。
こうした中、レッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは、自分たちに責任のない物価高騰により、全22戦で行われる今年のカレンダーを当初の予算内で乗り切ることができるチームはほんの一握りになるだろうと主張している。
■実際に今の予算内で乗り切るのは不可能
マクラーレンのチーム代表を務めるアンドレアス・ザイドルは、母国ドイツの『Sky Deutschland(スカイ・ドイチュランド)』からそのホーナーのコメントについて質問を受けると次のように答えた。
「クリスチャンは白か黒か的な話し方をすることで有名なんだ」
「だが、この高騰するコスト、特に輸送費と電力は、我々にとって大きな課題となっているよ」
「今年のギャップを超えないようにすることは、今のところ実際には不可能だね」
そして、伝えられるところによれば、レッドブルを筆頭とするビッグF1チームたちは、今年の予算上限を引き上げるようF1や統括団体であるFIA(国際自動車連盟)に働きかけているという。
■定められた予算で乗り切るのが自分たちの仕事だとハースのボス
しかし、最初から小規模予算で戦っているチームからすれば、それは話が違うということになるようだ。
「我々の問題は予算制限ではないよ」
ハースのチーム代表を務めるギュンター・シュタイナーはそう語ると次のように続けた。
「我々の問題は予算なんだ」
「我々はシーズン終了まで乗り切らなければならないだけだ。それが我々の仕事なんだ」
■自分でブレーキをかけるだけでは無理だとザイドル
ザイドルは、大規模チームと小規模チームの間で「妥当な議論」が行われ、「FIAが主導する解決策」で落ち着くことを望んでいるという。
「あまり時間がかからないことを願っている。時間はどんどん過ぎていくからね」
「バジェットキャップのもとで運営する計画を立てていた者すべてが、現時点では間違いなくハンドブレーキをかけなければならない状態にある」
2019年5月からマクラーレンF1チームを率いているザイドルはそう語ると、次のように付け加えた。
「しかし、たとえそうしたとしても、爆発的に増加したコストを補うことはできないし、我々は、シーズンのこの時点においては何の影響力も持っていないよ」
■上限引き上げ分は特定の分野に使途を限定すればOK
現在のバジェットキャップ問題に関しては、大規模チームたちが開発により多くの資金を投入するための言い訳として利用しようとしているのではないかと懸念する声もあるようだ。
しかし、マクラーレン・レーシングのCEOを務めるザック・ブラウンは、『La Gazzetta dello Sport(ガゼッタ・デロ・スポルト)』に次のように語っている。
「いや、我々に必要なことは、輸送費や旅費など、特定の分野でのしばりを緩めることだよ」
FIAは各F1チームにバジェットキャップを遵守させるために綿密な財務チェックを行うことになっている。ブラウンに言わせれば、もし予算上限値を引き上げたとしても、その増加した分の予算がマシン開発に関係のない輸送コストなど、いわゆる間接費的な部分にのみ充当されているかどうかをきちんとチェックすれば大丈夫だということだろう。