2018年8月5日、ツインリンクもてぎで122台が参加した最大規模のカート耐久イベント「2018もてぎKART耐久フェスティバルK-TAI(ケータイ)」が開催された。K-TAIは「みんなでKARTを楽しもう」という参加型カートレースで、スーパーGTなども走っている1周4.8013kmのツインリンクもてぎロードコースを、排気量270cc以下の4サイクルエンジンのカートで走る7時間耐久イベントだ。
年齢は10歳から参加できるので、家族や友達と一体感を持って楽しめるのも特徴だ。応援に駆け付けた家族や友人を含めると約数百人が参加する大規模なカートイベントに成長している。
K-TAIは毎年真夏に行われているが、レース本番に向けて4月からお試し走行会や申込み、練習走行会が数回行われる。このオフシーズン企画では、来年のK-TAI参戦を検討したい人に向けて、どのようなドラマが生まれていくのかを写真とともに紹介しよう。
■TopNewsも初参戦!
クルマやモータースポーツが大好きな仲間で構成されたチーム「クラブレーシング」の一員として、TopNewsも参加する機会を頂けた。このチームはフリーライターやクルマのエンジニア、すでに会社を引退された大先輩から若手社員、複数のメディア関係者やご家族等で構成されており、4台体制での参戦だ。
■全員がペイドライバー
レース前日、安全に関するブリーフィングや事務手続きなどを行う。当然ながら全員がノーギャラで自腹参加のため、F1でいうところのペイドライバーのような気持ちで仲間とともにK-TAIを楽しめる。
■予選は抽選!
レースのスターティンググリッドはなんとくじ引き。練習走行はあるものの、F1のような予選という走行枠はないのも特徴だ。
「クラブレーシング」のくじ引き予選結果は・・・第1グループには46番グリッド:95号車が1台、第2グループに91番グリッド:96号車、99番グリッド:97号車、115番グリッド:98号車と、まるで2018年のトロロッソ・ホンダのような中団から後方グリッドに落ち着いた。
練習走行での他チームのタイムシートを見ながら実力を分析し、このくじ引き予選結果を元にレース戦略を立てていくことになる。
■ステッカーチューン
長年参加している「クラブレーシング」には、「ホンダファイナンス」「ヨコハマタイヤ」「メルティークビーフ」という3社のスポンサーがついている。
レース前日、全員で4台のカートにステッカーを貼り、カートの最終調整や最終ミーティングを行った。1年に1回集まる仲間と一緒に会話しながらカートを磨き、共に作り上げていくことでチームとしての“一体感”が生まれてくる。モータースポーツはチームスポーツのため、こうしたコミュニケーションが大切だ。
■前夜祭はBBQ
「クラブレーシング」では恒例のBBQパーティーをツインリンクもてぎ内で開催した。レース前夜には美味しいお肉とお酒を頂きながら、クルマやレースの過去・現在・未来を語り合う・・・。10代から70代超と年齢も仕事も様々だが、こうした交流会を催すことで自然と絆が生まれてくるので、K-TAIに参戦するチームには前夜祭を開催することをオススメしたい。
高級ホテルやレストランでも扱っている「メルティークビーフ」はネットでも購入できる。食べ過ぎてしまうとレース当日の重量が増えてスピードに影響が出てしまうが・・・それよりも大事なのは仲間と楽しむこと。絆が強くなればチーム力は上がり、成績も上がってくるだろう。
お肉とお酒を頂きながらも、エンジニアチームはシミュレーションを続けていた。
■いよいよレース当日
まずは参加者全員で全体ブリーフィングを行った。レースの基本的なルールや独自ルールの再確認、そして何より全員が笑顔で無事にフィニッシュすることが大切だ。
2018年K-TAI参加者全員で記念撮影。レース参加者以外にも家族や友人が多く見られたため、1,000名規模のイベントとなっている。
ハイテクが進んだ現代でも無線は使わず、お手製のピットボードを使用してドライバーに指示を出す。
ホワイトボードにはピットインに関するルールを書き出して、ペナルティにならないように各自が確認していた。
一緒に走るメンバー同士がデータロガーの操作方法を確認。特にピットロードでは40km/hのスピード制限があるため、モニターにスピードを表示して確認しながら走らないとペナルティを科せられタイムロスしてしまう。
ピット裏ではサポーターの皆さんが大量のドリンクを準備してくれていた。8月のサーキットは非常に暑く、脱水症状にならないためにも十分な水分補給は必要だ。
こちらは昼食に向けて美味しいカレー作りを始めた。子供も率先してお手伝い。みんなで作り上げていくのはF1も同じだ。
こちらはピットで待機する精鋭のエンジニアチーム。耐久レースはドライバーが複数人いるため、複眼的に考えつつ、誰にも不具合のない最高のコンディションのカートを整えてくれた。また、ピットインの際には給油やタイヤの空気圧チェック、タイムキーパーなどシミュレーション通り完璧な仕事をこなしてくれた。大きな問題が起きずに走れたことが最高の仕事をしてくれた証だ。
こんなにも多くのサポーターに支えられて走る4台のドライバーたちは、それぞれのスターティンググリッドに向かって、健闘を誓った。
■いよいよ122台がスタート!7時間耐久、始まる
午前9時30分、いよいよ7時間の耐久レースがスタート!しかし参加台数は122台。一気に122台ものカートが1コーナーになだれ込んでいったら・・・当然スピン、クラッシュが起きる危険性もある。よって主催者はスターティンググリッドを2グループに分けて、時間差でスタートさせている。
まずはくじ引き予選1番手〜61番手までの第1グループがセーフティカー先導でスタートした。後方には第2グループを先導する青いセーフティカーが見える。
こちらは62番手〜122番手までの第2グループのスタートシーン。コース幅が広いため、5ワイド、6ワイドでの走行も可能だ。
この時点で、予選1番手と予選122番手は半周以上の差がつくことになるが、「仲間と楽しむ夏イベント」ということをお忘れなく。
■レース中
レース中、走っているドライバー以外の人たちは多くの仕事をこなしている。
炎天下の中、ピットは毎周ピットボードでドライバーに指示を出す。これも暑さとの闘いだ。
こちらはスタートドライバーが1回目の走行を終えてピットインした際に給油をしている様子。火災に備えて、消火器を持った人が真横で待機するのがルールだ。
ピットインしてドライバー交代。その際、必ずタイヤの空気圧チェックを行う。炎天下で走行を続けているとタイヤ内部の空気は膨張し、タイヤ性能が劣化するため、適正値に戻すことでパフォーマンスを維持できる。ロングライフのタイヤなので、基本的にタイヤ交換は行わない。
ピットインした際、エンジニアチームはデータロガーからデータをPCにコピーし、分析をしていた。ドライバーのアクセル開度や走り方、そして給油した量で燃費計算し、7時間後のゴールまでの総給油量を計算。燃料を多く入れすぎるとタイムに影響するため、ギリギリの量しか入れない。97号車はゴール直後に100cc残るはず、というギリギリの戦略で上位進出を狙っていた。
ピット裏では早朝から準備していたカレーが用意されていた。猛暑の中、料理をする側も大変な作業だ。
一方コース上では、3ワイド、4ワイドでのバトルは当たり前。7時間耐久レースとはいえコースのあちらこちらで激しいバトルが常に繰り広げられていた。
ピットで待つチームメートはタイミングモニターを見つめながら、順位とタイムを常にチェックしていた。
■ダイエットにもオススメ?
当日は日陰で休んでいても汗が噴き出るような酷暑。そんな暑さの中、レーシングスーツとヘルメットを装着し、火傷しそうなほど熱くなっているコース上のわずか数センチ上を、一人30分以上のスティントを全力で走り続けるという、文字に書き起こしているだけでもダイエットに成功しそうな厳しい暑さの中、参加者たちはサーキットで7時間以上過ごしていた。
実際、熱中症対策として一日に500mlのペットボトルを何本飲んだか分からないほどだが、ほとんどトイレに行った記憶がない。真夏のサーキットではそれほど大量の汗をかけるので、楽しく気持ちよく運動しながら痩せたい人にも参加をオススメしたい。
■アクシデントもレースの一部
ライバルたちとレースをしていればアクシデントは起こるものだ。95号車は他車と接触し左カウルが激しく損傷してしまった。
どうやら接触によりフレームが曲がってしまったようで、最も大柄な人が体重を掛けてフレームを戻そうとしている。
エンジニアやメカニック総出で95号車の修復を行い、無事にコースに戻すことに成功した。
■7時間後にドラマが・・・
ドライバー、ピットクルー、ピット裏の全員が力を合わせて7時間もの長丁場を戦ってきたK-TAIだが、とうとうチェッカーフラッグが振られた。
「クラブレーシング」のエース車である97号車は、最終スティントで数台の速いカートとスリップストリームを使い合いながら双方のタイムと順位を急激に上げつつ、激しいデッドヒートを繰り広げていた。この時の最終ドライバーに任命されたのは筆者だった。
しかし、ゴール直後に100ccしか燃料が残らないハズというギリギリの燃料しか積んでない攻めの戦略だったため、燃費走行もしながらバトルもするという難しい状況が最後にやってきていたのだ。
この状況下でドライバーは次の2択から選択しなければならない。アクセルを抜いてバトルをやめるか、燃費走行をしながらでもバトルを続けるか。どんどん順位が上がっている中で非常に悩ましい選択だ。攻めの戦略を立てた97号車に乗っていたら、あなたはどちらを選択するだろうか?
結局、97号車はできる限りの燃費走行をしながらバトルを続け、順位を上げ続けた。それをピットのタイミングモニターで見ていたチームメートは大盛り上がりだったのだが・・・耐久レースのドラマは最後の最後に訪れた。
■まるでル・マン24時間レース・・・
それはまるで2016年のル・マン24時間レースのようだった。ゴールまで残り3分というところで、中嶋一貴選手がドライブするトヨタのマシンはパワーを失い、ホームストレートでクルマが止まってしまったシーンを多くの人が覚えているだろう。
クラブレーシングの97号車にも2016年の中嶋一貴選手と同じような状況が訪れてしまった。97号車は最終ラップのダウンヒルストレートで突然パワーを失った。まさかの燃料切れだった。チェッカーフラッグまで、90度コーナーから上りの最終セクションを回ってホームストレートを惰性で進むしか方法はない。しかし、その速度はどんどん落ちていき、後方のマシンはハイスピードで抜き去っていく・・・。
そんな状況で、97号車は最終コーナーへ向かわず、フィニッシュラインまで最短距離のピットロードへ向かうことを選択。しかし、パワーを失った97号車は奇しくもクラブレーシングのピットの目の前で止まってしまった。チームの全員がホームストレートを見つめながら97号車の帰りを今か今かと待っていたが、97号車は皆の背後のピットロードで力尽きて止まっていたのだ。ゴールまであと100mだった。それがこのシーンだ。
燃料切れで止まってしまった97号車を苦笑いで迎えるエンジニアチーム・・・。実はエンジニアチームは上がり続けるタイムを見ながら燃費をリアルタイムに再計算していて、「このタイムのままだと燃料切れでゴールできないだろうな」と予測していた。その計算は正しく、燃料タンクの中には1滴の燃料も残っていなかったのだ。
戦略でもコース上でも攻め続けて上位を狙った結果だったが、全員が春の練習から数ヶ月準備してきて、ここまでに記載してきた多くの人のサポートがあり、ドライバーはそんなチームを代表して7時間を走ってきたのだから、気持ちよくチェッカーフラッグを受けられなかったのは悔しい結果だ。
ピットロードで止まった97号車は、フィニッシュラインまでカートを手で押してフィニッシュした。目指す先は「ツインリンクもてぎ」と書かれた看板のあるフィニッシュラインだ。
いかがだっただろうか。7時間の耐久レースにはこのように様々なドラマが起こるのだ。K-TAIは仲間と手軽に本気で楽しめるモータースポーツだ。皆さんも2019年のK-TAIに仲間と出場して、それぞれの夏の思い出を作ってみてはいかがだろうか。友人、家族など仲間とレースやBBQを本気で楽しむことで絆が強くなり、レースの面白さを実感することができるだろう。