現在、F1では今季から導入された新たなV6ターボによる「パワーユニット」の音に関する議論が噴出している。実際のところ、そうしたエンジン音に関する言い争いはF1に根深い問題がたくさん潜んでいることをうかがわせるものでもある。
メルセデスAMGの非常勤会長であるニキ・ラウダは、29日(土)に『Independent(インデペンデント)』に対し、F1チームたちは大規模チームたちどころか、グリッド後方に沈む小規模チームでさえ、さまざまな部分で「信じられないほどに戦っている」と語った。
小規模チームにとって大きい問題は、コスト上限策を確立させることだ。フォース・インディアのチームディレクターであるボブ・ファーンリーは、もしこの問題に関して何も手が打たれなければ「小規模のチームは途中で(参戦を)あきらめるしかなくなるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
だが、F1最高責任者のエクレストンは、億万長者として知られるレッドブルのオーナー、ディートリッヒ・マテシッツでさえF1から撤退してしまうかもしれないと警告している。それはマテシッツが静かな「新しい」F1に不満を抱えているからだ。
「私は、彼がF1から去ったりはしないというほうに自分の金を賭けたりはしないね」とエクレストンは語った。
だが一方では、エクレストンとマテシッツがF1を乗っ取ろうという恐るべき計画の準備をしているかもしれないといううわさもある。
F1においては常に、そうした腹黒い不可解な政治的陰謀はさまざまな騒音の下に埋もれてしまうのだ。
また、29日(土)にはセパンにおいてエクレストンが1時間にも及ぶ長い話し合いを行っていたところが目撃されている。その相手は普段はめったにレース会場に姿を見せることのないF1の大株主であるCVC(キャピタル・パートナーズ)の責任者、ドナルド・マッケンジーと、もうひとりはほかならぬレッドブルのチーム代表、クリスチャン・ホーナーだった。
この3人はいずれもそのときの話題についてコメントしようとはしなかった。だが、これまでにもしばしば、もしCVCが元銀行家のゲルハルト・グリブコウスキーとの汚職事件に関する刑事裁判の被告となるエクレストンを更迭する場合には、ホーナーがその理想的な後任であろうと言われていた。
さらに、F1バーレーンGP(4月6日決勝)の1週間後には、レッドブルが開幕戦のオーストラリアGPにおいて2位でゴールしたダニエル・リカルドの失格処分を不服として起こした申し立てに対し、F1統括団体のFIA(国際自動車連盟)による聴聞会が行われることになっている。そして、その結末は劇的なものとなるであろうと言われている。
1996年のF1チャンピオンであり、現在はテレビ解説者となったデーモン・ヒルは、セパンで『Daily Mail(デイリー・メール)』紙に対して、顔をしかめながら次のように述べた。
「いつものことだけど、F1にとってはこの2、3週間は大変だね」
「F1は、サーキットでクルマを走り回らせるという比較的単純な仕事の回りに自分たちでドラマを作ってしまうんだ」
そう語ったヒルは、次のように締めくくった。
「でも、今回はこれまでよりももっと重要だよ。それは今F1が変革を迎えようとしているものの、それがどこへ向かおうとしているのか誰も分かっていないからね」