F1最高責任者であるバーニー・エクレストンが、KERS(運動エネルギー回生システム)についてあまり好ましく思っていないと認めている。
KERSとは、ブレーキング時のエネルギーを回収・蓄積し、再利用するシステムのことだ。F1では電気エネルギーに変えて蓄積し、加速の際にモーターを利用して運動エネルギーとして再利用する方式が主流となっている。世界的に、いかに化石燃料から脱却するかということが課題となり、自動車にも環境問題や資源問題対策が必須となっているという背景のもと、F1でもより環境に優しいレースへと転換することをひとつの目的として、こうした新しい技術が採用されている。さらに、2014年からはエンジンがより小型化され、現行の2.4リッターV8自然吸気エンジンから1.6リッターV6ターボエンジンとなることが決定しているほか、KERSも現在の運動エネルギーのみを回生するシステムから、熱の回生も行うシステムへと変更されることが予定されている。
こうした新技術の導入については、市販車への技術展開の可能性も含めて歓迎する声もあるものの、同時に、本来のF1レースの魅力を損なうものとなるのではないかという否定的な見方があるのも事実だ。
5月13日(日)に開催されたスペインGP決勝レース後に、ウィリアムズのピットで火災が発生したが、その原因についてはまだ調査が進められている段階だ。しかし、エクレストンはその火災の原因はKERS関連システムであるとの考えを示し、F1の商業面を専門分野とするジャーナリスト、クリスチャン・シルトによるインタビューを受けて『cityam.com』に次のようにコメントしている。
「私は、火災の原因として運動エネルギー関連の部品が、かかわっていると考えている。それがスパークしたんだとね」
「(KERSは)導入されるべきではなかったよ。とても金のかかる秘密のシステムで、誰もそれについて何も知らないんだ。一般の人々は分かっていないし、気にもしていない」
エクレストンのこのコメントは、次期コンコルド協定(※)締結に向けて、現在F1の統括団体であるFIA(国際自動車連盟)とたもとを分かつ可能性があるのではないかとの推測がささやかれている最中に出てきたものだ。
また、エクレストンの友人としても知られるフラビオ・ブリアトーレがモナコにおいて、新しいレースカテゴリー立ち上げに向けて、現在のF1レギュレーションに代わるものを作成しているところだと認めたことも報じられている。
もともとエクレストンはF1が2014年から新しくV6エンジンによる新エンジン規則を導入しようとしていることについて、反対の立場であると伝えられていた。その新しいエンジン規則によると、ピットレーンではエンジンを使うことが許されず、KERSのみで走行することが求められることになるという。
こうした方向性に対し、エクレストンは次のような持論を展開している。
「もしチームがエンジン関係の施設を縮小すれば、それらを運ぶトラックの数も減らせるはずだ」
「メルセデスAMGでは、たしか22台のトラックを持っていたと思うが、もしそのうちの2台を削減することができれば、ピットレーンで電気式モーターを使う必要はないはずだ。F1カーよりトラックのほうがよほど大きな汚染源だからね」
「チームがスポンサーやブランドイメージを守るために、そうしたものをすべてそのまま保ちたいと考えていることには満足しているよ。だが、彼らはくだらない話をするべきじゃないね」
(※)コンコルド協定とは、F1チーム、統括団体のFIA(国際自動車連盟)、F1運営会社の3者間で結ばれる協定。F1の商業権に関する事項や運営方法、利益分配条件などが規定されており、内容は非公開となっている。このコンコルド協定などをめぐって、F1最高責任者であるバーニー・エクレストンとFIAの関係がぎくしゃくしているとのうわさがある。