F1マレーシアGPが開催されるセパンは、急速にF1における「チームオーダー」の街となりつつあるようだ。
昨年のこのレースでは、悪名高いレッドブルの「マルチ21」騒動が見出しを飾ったばかりではなく、メルセデスAMGのニコ・ロズベルグもチームメートのハミルトンの後ろにとどまるよう指示を受けたことに対して批判を行っていた。
メルセデスAMGについては、今年はハミルトンがロズベルグを大きくリードしていたため、昨年と同じようなことは起こらなかった。
今回起こった新たな「チームオーダー」騒動は、トップ争いではなく、7位争いの場面で起こっている。レース終盤、7番手を走行していたウィリアムズのフェリペ・マッサのすぐ後ろにチームメートのバルテリ・ボッタスが接近してきたときのことだ。
そのとき、マッサはチームから無線で次のような指示を受けた」
「いいかい、フェリペ。バルテリ(ボッタス)は君より速いから、彼を押さえ込まないようにしてくれ」
昨年までフェラーリに在籍していたマッサだが、やはり数年前にチームから「フェルナンドのほうが君より速いぞ」という指示を受けたことがあった。このときはフェラーリの指示に従ってアロンソに道を譲ったマッサだったが、今回ウィリアムズからそれと似たような言い回しでの指示を受けたマッサは、これに従おうとはしなかった。
指示を無視されたチームは、マッサに対してさらに次のように語りかけた。
「バルテリのほうがいいタイヤをはいているから彼を前に出す必要があるんだ。彼のじゃまをするな」
しかし、マッサは再びこの指示を無視し、チームメートの前にとどまり続けた。そして、これによってウィリアムズはゴールまでにボッタスにマクラーレンのジェンソン・バトンをとらえさせて6位を狙うチャンスを失ってしまった。
レース後、マッサは沈黙を破り、『BBC』に次のように語った。
「何も言うことはないよ。僕はただ最後まで戦い続けただけさ。それが僕がやりたかったことだし、僕は自分のキャリアのために、そして正しいと思うことのために戦うよ」
「僕がやったことについて後悔はしていない。僕はチームに対して敬意を抱いているし、彼らも僕に敬意を示してくれると信じている。それがすごく大切なことなんだ」、とマッサは付け加えた。
ウィリアムズのチーム副代表であるクレア・ウィリアムズは、イギリスの『Sky(スカイ)』によるインタビューを受けた際、公然とマッサを非難することは避け、あれは「難しい状況でした」とだけ語った。
一方、マッサに妨害される形となってしまったボッタスは、マッサがその指示に従うべきだったと次のように語った。
「僕にはジェンソン(バトン)をとらえる本当にいいチャンスがあったと思っている。僕は本当に速いスピードで近づこうとしていたからね。でも、さっきも言ったけれど、チームと話す必要があるよ」
かつて3度F1チャンピオンとなった伝説的な元F1ドライバーであり、現在はメルセデスAMGの非常勤会長を務めるニキ・ラウダは、マッサは何も悪いことはしていないと考えていることをほのめかしている。
「その問題は我々にも今後起こる可能性があるものだよ」
そう語ったラウダは、次のように付け加えた。
「レーシングドライバーはレーシングドライバーなんだ。彼らは自分のためにレースをするんだよ。私もまったく同じことをしていただろうし、我々のドライバーたちだって同じことをするだろうね」