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【ホンダF1】『世界一』の自信と笑顔が溢れるF1開発拠点『HRC Sakura』を公開!

2022年08月02日(火)19:32 pm

ホンダは2日、F1開発の心臓部である『HRC Sakura』を報道陣に公開した。そこは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とともにF1世界選手権ドライバーズチャンピオンを獲得した“世界最先端・最高の技術”が詰まった、F1ファンにとっては夢の国だった。

●【F1契約】ホンダとレッドブル、2025年いっぱいまでF1パワーユニット契約を更新!

■F1パワーユニットの心臓部『HRC Sakura』公開!

2021年限りでF1の表舞台から撤退したホンダだが、レッドブルが協力を要請し、ホンダが受託したことで、今年もホンダ製パワーユニットはF1でトップを走っている。

全体図としては、レッドブルがホンダに「協力要請」、ホンダが「受託」したことで、レッドブルはホンダに変わるパワーユニット供給元として新会社「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」を設立し、RBPTの“技術パートナー”として「HRC(ホンダ・レーシング)」がF1パワーユニットの「開発・供給・運用」を続けている。

「Honda(本田技研工業)」は2輪・4輪レース活動全般に関する業務をレース活動組織の子会社「HRC(ホンダ・レーシング)」に移管して「業務委託」をし、栃木県の『旧HRD Sakura』は『HRC Sakura』と名を変えている。2輪活動をしてきたHRCは40周年を迎え、「HRC 40周年」ロゴが各参戦カテゴリーに掲示されるというので今後のレースにも注目したい。

さて、通常、F1開発拠点と言えば極秘情報が詰まった研究施設で、誰もが気軽に立ち入れる場所ではないのだが、新生HRCとしてスタートした今「具体的に見てもらいたく、取材会を設けました」と渡辺康治社長は語った。ホンダ子会社となり、良い意味で小回りが利く組織に生まれ変わったようにも感じた。

この日の出席者は、渡辺康治氏(代表取締役社長)、浅木泰昭氏(常務取締役 四輪レース開発部)、若林慎也氏(取締役 二輪レース部 部長)、長井昌也氏(取締役 企画管理部 部長)、そして各領域のエキスパートである担当エンジニアが、計4時間、詳しく丁寧に説明してくれた。

各領域のエキスパートから技術専門用語を次々と浴びながら、実際に「PUの組み立て作業」をしているエリア、パワーユニットに組み込む前の部品を「CTスキャン」で360度撮影して小さなクラックなどを人の目で見つけるエリア、「風洞」では実際のテスト風景や風洞内部を歩いての見学、世界最高レベルの「最新シミュレーター」による鈴鹿サーキット走行風景、レース中にF1の現場と直接繋がって秒単位で判断を下す「さくらミッションルーム(SMR)」、レース前の最後の砦である「ベンチテスト」などが公開された。

■レースをリアルタイムで監視する『ミッションルーム』

『HRC Sakura』は全てが素晴らしすぎる設備で、ここで伝えるには限界がある。詳細は後日別記事でお伝えすることにするが、まずここでは「さくらミッションルーム(SMR)」を紹介したい。

NHK BS1の特番でも映し出されていたので番組を見たことがあるF1ファンなら「あそこか」とわかるだろうが、ミッションルームは大画面スクリーンとエキスパートのデスク前にずらりと並ぶ複数のモニターが印象的なカッコ良すぎるエリアだ。

「F1専用」ルームとして使われているというこの「さくらミッションルーム(SMR)」は2015年の参戦当時に設置し、F1グランプリが行われる3日間、約20名のエキスパートが座ってリアルタイムに監視するという。

ここに送られてくるデータだが、まず走行中のF1マシンからピットに無線で走行データが飛び、ピットと『HRC Sakura』やレッドブルF1のイギリスの拠点は「専用回線」で接続され、2チーム4台のリアルタイムデータが飛んでくる。

1人3台のモニターには、非常に細かいデータやグラフが画面一杯に映し出されていた。大型モニターを正面にして、部屋の左側がレッドブルF1、右側がアルファタウリF1と分けているという。

報道陣はそのデスクに着座を許され、さらにヘッドホンを通して会話をするという疑似体験をさせてもらえた。会話をする際には、モニター下にある「ホタン」を押しながら話すのだが、そのボタンには「TSU」や「GAS」などの表示もあり、ここからサーキットのピットだけでなく、走行中のドライバーとも直接話すことができるというから驚きだ。

レース中、ピットウォールにいるエンジニアたちがドライバーと会話をする際にモニター下のボタンを押している姿が国際映像で映し出されるが、まさにアレだ。同室ということもあるのか、音声は非常に明瞭でクリアだった。

目の前のモニターには細かいデータとグラフが所狭しと映し出されていたが、このインターフェイスは「2015年当時とは別物で日々アップデートを繰り返し、ノウハウが詰まっている」という。

■ホンダF1復帰後初優勝の裏側を疑似体験!

正面の大型モニターでは、あるレースのデモが流された。それは、PUメーカーとして復帰したホンダF1が苦労の末、初優勝を果たした2019年F1第9戦オーストリアGPの映像とその当時の本物のリアルタイムデータだった。

当時レッドブルF1のピットウォールからマックス・フェルスタッペンに出されたのは「エンジン11(イレブン)、ポジション7(セブン)」の指示。これは「パワーの最高出力」を意味する。

レギュレーションでは年間3基しか許されていないため、通常は数戦走れるようにパワーを下げてエンジンを温存している。しかし、この時は「勝てる!」と判断したため、最高出力を許可したのだという。

逃げるシャルル・ルクレール(フェラーリ)、追うマックス・フェルスタッペン(レッドブル)。熾烈なトップ争いの映像とともに、リアルタイムデータが流れてくる。あの時の興奮が甦る。いや、ミッションルームで映像とデータを見ていると、結果は分かっていてもあの時以上の興奮と緊張を感じる。目の前に国際映像には絶対に映らないデータが流れているのだ。


録画された国際映像を見ながら、思わず、座席の目の前の「ボタン」を押してドライバーに「エンジン11(イレブン)、ポジション7(セブン)」と指示したくなった。このミッションルームに座ってイヤホンマイクをしていると、まるで自分がホンダF1のエキスパートになったような錯覚を覚えた。

■エンジンモード・ポジション

国際映像でよく聞く「エンジンモード・ポジション」だが、この設定をドライバーが変えると、事前に設定した「パワー全開エリア」と「パワーを落とすエリア」をプログラミング通りにPUが自動的に切り替えるという。直線ならパワーアップ、コーナーではパワーダウンさせるというものだ。どの区間でパワーアップさせたいのか、そのパワーアップさせたい区間ではどれだけパワーを増やすのか、など何通りもある中で選択する。

PU自体が今サーキットのどこにいるのかどうやって判断しているのか気になるところだが、これはGPSではなく、タイヤの回転数で位置情報を計測・判断して、エンジンモード・ポジションで設定された通り自動で出力を切り替えているという。

当然、スピンしたり、タイヤを空転させてしまうこともあるため、その度に距離データが徐々にズレて適切な場所でパワー出力が切り替わらないのでは、と思ったのだが、それを修正するプログラムもちゃんと組まれているという。

なお、エンジンモード・ポジションの組み合わせは100通りを超えるといい、マイレージや勝負所を考慮しながら適時判断している。パワーユニットに何かしらの不具合が出た場合は、モニターにアラートのポップアップで出てくる仕組みになっているという。我々のパソコンでもメールやチャットの通知が出てくると思うが、同じようなものということだ。

エンジンモードをドライバーに指示しているレッドブルとアルファタウリのエンジニアの裏側では、このミッションルームでHRCのエンジニアたちが瞬時にデータを判断して「パワーアップを許可したのだ」と想像しながらレースを見れば、きっとあなたもホンダF1のエキスパートと同じ気分を味わえるだろう。

国際映像では、主に「ドライバーが抜いた抜かれた、DRSが開いた、タイヤにブリスターが発生した」などしか映らないため、外からはなぜあのラップのあそこで抜けたのかという本質が見えてこないことも多いのだが、その裏側ではエンジニアたちが瞬時に判断して、チームとして勝負に挑んで、勝利を掴んでいたのだ。現役のエンジニアの説明を聞いていると改めてすごい勝利だったのだとよく分かった。

■レッドブルがホンダF1を手放したくなかったのも納得

この取材会で、速いマックス・フェルスタッペン、速いレッドブルF1の車体、そして短期間で驚くほど速くなったホンダF1のパワーユニット、全員がチームとして協力して戦い、世界一を獲ったと改めて実感できた。

ホンダという世界的自動車メーカーが決めた「F1撤退」という重い決断は世界中に衝撃を与えたが、世界チャンピオンになるには何が必要かをよく知っているレッドブルF1がなぜ「ホンダを絶対に手放したくない」と思い、何としても説得しようと思っていたのかも納得だった。

世界最先端の設備と技術と知恵を持ったリソースが『HRC Sakura』にはあるのだ。また、これだけの設備とエンジニアたちを見れば、勝ち方を知っているレッドブルF1が「ホンダとなら勝てる」と感じたのも当然だ。

■「世界一になったという自信」と「情熱」を持ったエンジニアたち

見学会を終えてから渡辺社長と立ち話をした際「ここに居る人たちは“熱い”ですよね」と笑顔で語ってくれた。本当にどの分野のエンジニアからも情熱を感じ、笑顔で生き生きと語ってくれた姿が印象的だった。これが世界一になったという自信なのかもしれない。

世界一を獲ったパワーユニットの開発を指揮してきた浅木泰昭氏は「世界一になったという自信が一番大事。これからどんな仕事に就いてもその自信がホンダを危機から救う」と若手に伝えたいという。

浅木氏は「F1は一切の妥協が許されない」厳しい世界と表現した。F1で鍛えられ、世界一になったという自信を身につけたホンダのエンジニアたちの多くは、カーボンニュートラルを達成するために『Sakura』から散っていったが、F1のように短時間で判断し、短期間で成し遂げなければならない環境で鍛えられた強くて自信に満ちた「ホンダ・ハート」があれば、この先どんな難題でも必ず解決し達成してしまうのだろうと、お世辞抜きで心から感じられた取材会だった。

他の部門については、夏休みの宿題として後日お伝えしたい。

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