F1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)でかつてレースディレクターを務めていたマイケル・マシが衝撃的な復帰を果たす可能性もゼロではないかもしれない。
■大きな論争を呼んだマシのレース采配
2021年のF1最終戦アブダビGP終盤にセーフティカーが導入された際、当時レースディレクターを務めていたマシが例外的レース運営を行ったことでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がルイス・ハミルトン(メルセデス)を最終ラップでオーバーテイクして初のF1タイトルを獲得したのはまだ記憶に新しいところだ。
通常の手順でレースが再開されていればハミルトンが確実に通算8回目のF1ドライバーズタイトルを獲得できていたはずだっただけに、そのマシの采配は大きな物議を醸すことになった。
FIAは、そのときのマシの判断は本来の手順を逸脱するものだったことを認めたものの、レース結果を覆すことはなかった。そして、マシは2022年2月にF1レーシングディレクターの職を解任され、同7月にはFIAを離職している。
メルセデスのチーム代表を務めるトト・ヴォルフはいまだにアブダビでのマシの采配を根に持っているようだ。ヴォルフは、フェラーリとのコンストラクターズ選手権2位争いが決着することになる先週末のアブダビGPに向けて次のように語っていた。
「適切なレースディレクターがいれば、問題ないはずだよ」
■FIAが必要だと判断すればマシの復帰もありえる
問題となった2021年F1最終戦アブダビGP決勝が開催されたのは同年12月12日だったが、その5日後の17日に前会長ジャン・トッドの後任としてFIAの新会長に選出されたのがモハメド・ベン・スレイエムだ。
ベン・スレイエムが会長として抱えた初めて大きな難題がこのアブダビGP問題だったわけだが、前述のようにFIAは最終的にそのレース結果は有効であると判定し、結果が覆されるようなことはなかった。
ファンの中にはマシの例外的レース運営によってハミルトンが本来手にすべきであった8度目のタイトルを奪われたのは間違いなく、FIAの判断は不当であり、ベン・スレイエムがそのことについて謝罪もしていないのはおかしいと批判している者もいる。
しかし、62歳のベン・スレイエムは、イギリスの『The Guardian(ガーディアン)』紙に次のように語った。
「私は常に謝罪はするよ。だが、私の時代より前に済んでしまったことについて謝罪することはできない」
「いいだろう。謝罪しようじゃないか。だが、私はマイケル・マシを再び連れてくるよ。それでいいと思うかい?」
「かわいそうなのは、攻撃され、嫌がらせを受けた人だ。マイケル・マシは地獄の苦しみを味わったんだ」
「そして、もしFIAが必要とし、マイケル・マシが適任だと判断されるような機会があれば、私は彼を連れてくるだろう」
■自分も殺すと脅されていたとベン・スレイエム
2019年のF1開幕戦開催直前にメルボルンのホテルで急逝したチャーリー・ホワイティングの後任として突然F1レーシングディレクターに抜擢されたマシだったが、その職を3シーズンにわたって務めた後に解職され、現在は母国オーストラリアに戻ってスーパーカーズ選手権やカート選手権の仕事に携わっている。
伝えられるところによれば、マシはアブダビでの一件によって心に負った傷に対処するためにメンタルヘルスのサポートを求めていたことも認めているという。
「私を殺すと脅迫する人さえいたんだ。私にはそれ(レース結果)を変える権力があったからね」
そう続けたベン・スレイエムは、疑惑のゴール判定で有名となった1966年のサッカーワールドカップの試合に言及しながら次のように付け加えている。
「しかし、私は彼らにこう言ったよ。『申し訳ないが、1966年のワールドカップにおけるイングランド対ドイツ戦は正しかったのか? 彼らは変えたのか? ノーだ』とね。彼らはドイツに勝利を与えたのか? ノーだよ」