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【解説:F1日本GP】2連覇フェルスタッペンもチームもメディアも「え?」F1の舞台裏で一体何が?“隠れルール”に大混乱・・・F1の複雑なルールはスポーツとして正しいのか?

2022年10月10日(月)7:40 am

3年ぶりのF1日本GPは、ホンダのお膝元である鈴鹿サーキットでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウィンを達成するという劇的な結果となった。

●【2022年F1チャンピオンシップ・ランキング】フェルスタッペン2連覇!F1第18戦日本GP終了後

■フェルスタッペンもチャンピオン決定に「え???」

しかし、そのフェルスタッペン本人も、レッドブルF1幹部も、フェラーリF1代表も、ベテランメディアも「え???」と驚いたのが、「2022年ワールドチャンピオン」というF1公式発表だった。

もちろん、誰もがフェルスタッペンがチャンピオンになったことに対してケチをつけているわけではなく、「F1のルール」に対して「???」となっていたのだ。

フェルスタッペンは次のように語った。

「ポイントで何を決めるのか、さっぱりわからなかった。ゴールした時、僕はまだワールドチャンピオンではなかったんだ」

「誰かが『そうだよ』と言うと『本当に?』と答えた。すると、今度は『(チームに)違う』と言われた。そして、ついに、そう、本当にそう(チャンピオンに)なったんだ」

■レースを終えた時に初心者でも分かりやすいスポーツではない

F1は世界が注目するスポーツにもかかわらず、今回のようなケースではレースを終えた時点で何ポイント獲得できるのかドライバーもチームもメディアもファンも分からず、“誰か”が決めなければならないことがスポーツとして大きな問題だ。

これは今回だけに限ったことではなく、状況は様々ではあるが、レース終了時点ですぐに結果が分からず、“誰か”の裁定を待たないと分からないことが頻繁に起こっている。

レッドブルF1のクリスチャン・ホーナー代表は昨年のスパ(ベルギーGP)の後、レギュレーションを見直した際に生じた「ミス」だと言い、「レギュレーションに明記されていないため、我々が思いがけず勝ててしまったんだ」と語っている。

いったい、F1日本GPで何が起こっていたのか? 複雑ではあるが、近年は若い年代のファンも非常に増えているので、初心者にも分かりやすいようにできるだけ丁寧にシンプルにまとめてみよう。往年のファンにとっては多少長くなることをご了承願いたい。

■計算式では「112ポイント差」が分かれ目だった

F1日本GPのレース前の基本的な状況での計算式のシミュレーションだと、F1日本GPを終えた時点で、フェルスタッペンとシャルル・ルクレール(フェラーリ)が「112ポイント差」になった時点で、フェルスタッペンのワールドチャンピオンが決定することになっていた。

逆に、両名の差が「111ポイント差」だった場合は、フェルスタッペンは1ポイント足らず、チャンピオン決定は次戦アメリカGPへ持ち越しになる。これが基本だった。

この基本の計算式を当てはめると、フェルスタッペンが1位、シャルル・ルクレール(フェラーリ)が2位でフィニッシュ、ファステストラップは両名が獲れなかったフィニッシュ時点のケースだと、両者は111ポイント差となり、チャンピオンは持ち越しになる。

しかし、ルクレールは最終シケインでブレーキングでミスをして「審議対象となりそうな」シケイン不通過をしてしまった。

もしルクレールに5秒ペナルティが科せられれば3位になり、両者は114ポイント差でフェルスタッペンの2連覇が決まる。(実際に5秒ペナルティは表彰式までの間に決まった)

■5秒ペナルティの正当性を説明「ドライバーズブリーフィングで何度も言った」

FIAはルクレールへ「アドバンテージ」があったため5秒ペナルティを科した。この裁定の決定資料を読むと、今回の判断はレースディレクターが「何度もドライバーブリーフィングで伝えていた」ことで、「コースオフして同じポジションでコースに戻ってくれば、防衛に成功した」とみなされ「アドバンテージを得たものとする」と何度も説明していたことを考慮したという。

また、前例としてサウジアラビアでのジョウ・グァンユ(アルファロメオ)、マイアミでのフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)を参考にした、と裁定資料には書かれている。

これについては、ルクレールも受け入れているようで、ここに異論を唱えている者はいない。

■“新ポイントシステム”適用だと「チャンピオン決定は持ち越し」のはずだった

今回の最大の問題は「なぜフルポイントだったのか」という点だ。

本来53周の予定だったが、3時間経過時点で終了となったため、実際には28周の走行でフィニッシュしている。これは53周の53%(52.8%)に当たる。

通常レースは規定周回数を満たさなかった場合、「ハーフポイント」というのが一般的なレース界の常識だ。実際、昨年の大雨のスパ(ベルギーGP)はほとんど走れなかったにもかかわらず「ハーフポイント」だった。

歴史的に見ると、一般的には規定周回数の75%を超えれば「フルポイント」が常識とされてきて、75%未満だと「ハーフポイント」と非常に分かりやすかった。

しかし、昨年のスパではほとんど走れなかったのに「半分も」ポイントをもらえたことが物議を醸し、今年からポイントシステムを以下のように改定していた。

新ポイントシステムでは、優勝者に対して以下のように25%刻みで細分化されている。
2周〜25%未満で6ポイント
25%〜50%未満で13ポイント
50%〜75%未満で19ポイント(★今年のF1日本GPは53%)
75%以上で25ポイント(=フルポイント)

これを今回のF1日本GPの結果(ルクレール3位降格)に当てはめると、獲得ポイントは次のようになるはずだった。
優勝:19p フェルスタッペン
2位:14p ペレス
3位:12p ルクレール

これをチャンピオンシップポイントに合算するとF1日本GPを終えた時点で次のようになる。
ランキング1位:360p フェルスタッペン
ランキング2位:249p ルクレール
ポイント差:111ポイント

レッドブルでもこの計算式を当てはめた結果、112ポイントまで「1ポイント足りない」と思い込んで、「チャンピオン決定は持ち越し」だとフェルスタッペンに伝えていた。ライバルであるフェラーリも、そして多くの国内外メディアもそう考えていた。

ところがテレビモニターには「2022ワールドチャンピオン マックス・フェルスタッペン」の文字。

メディアセンターでは「フェルスタッペンは惜しかった」という認識だったが、突然の表示に「え???」となったのだ。大喜びしていたのはわざわざオランダから来ていた一部の関係者だった。

■隠れルールに大混乱

何度計算式を見直しても数字が合わない。計算式のどこに間違いがあるのか?どんなルールが隠されているんだ?誰もが問題を見つけようと必死にルールブックを読み返す。

そして分かったのは、もう一つの「隠れルール」である「もし」ということに気がついた時だった。

この新ポイントシステムでは「もしレースが中断され、再開されない場合」に適用となっていた。FIAも同様の説明を発表した。今年のFIAのやり方通り、スチュワードはレギュレーションに書かれたルールに忠実に則ったまでで、“昨年の最終戦のように”スチュワードの独断と偏見で決めたのではない、と言っているのだ。

もしレース再開後に赤旗中断で終了となっていたら、新ポイントシステムは適用されていたルールだった。

ところが今回は、「レースは再開され、チェッカーフラッグも振られた」ため、実際には規定周回数の53%しか消化していないにもかかわらず、この新ポイントシステムは「適用外」と判断された。そしてこうした場合のルールがないため、通常のフルポイントでカウントするしかなく、その結果、フェルスタッペンのチャンピオンが決定した。

全体の53%しか走っていないのに、レースは再開してフィニッシュしたから「フルポイントが正解」とFIAは判断した。この新ポイントシステムを求めたチーム側の“本来の意図”に反して、そしてF1の歴史で起こってきた“前例”にも反してでもだ。まるで難しい法律文書でも読んでいるようだ。スポーツは目の前で起きたことが分かりやすくなければならないのに・・・。

これに対して多くのF1関係者が「おかしい」「複雑だ」「混乱する」と口々に語っていた。

なぜなら、この不思議なルールが正解だとすると以下のようになるので、「違和感」が生まれたのだ。
2周走行後、フィニッシュ=「フルポイント獲得」
2周走行後、赤旗終了=「ポイント削減」
39周走行後、赤旗終了=「ポイント削減」
※セーフティカーやVSCの介入なしの周回数。
※全53周のうち39周(74%)消化の場合。

今回は、遅かれ早かれチャンピオンになることがほぼ確定していたフェルスタッペンの「タイミング」だけの問題だったから、騒動はこれで収まるが、もし昨年のようにこれが最終戦で大接戦だったとしたら・・・。

この後、またポイントシステムを変更しようとするだろう。もっとシンプルになることを全員が願っているからだ。しかし、ポイントシステムを変更するにはチームと話し合い、承認するというプロセスが必要となる。

また、このルールを作り出したのは一体誰だったのか?それはすでに解任されているマイケル・マシだった。もちろんマシが独断で作って勝手に決めたのではなく、チームを含めた複数の承認を経て改定されたため、これはマシ個人に責任の全てを押し付けるつもりはない。ただ、レギュレーションに「もし」を付け加え過ぎてしまった結果、現在のスポーティングレギュレーションは107ページに膨らみ、誰もが分かりやすいルールからは遠ざかってしまったため、今回の混乱が起こったのだろう。

■フェルスタッペン、レッドブル、ホンダ、鈴鹿サーキットを心から祝福

いずれにせよ、ここまでの一年を通して圧倒的な速さと強さを見せてきたフェルスタッペンとレッドブル、そしてホンダが作っているパワーユニットの最強最速パッケージは、関係者の誰もが認めているところで、スポーツの話をしているときは全員が笑顔になっているのは事実だ。伝説の鈴鹿サーキットで達成した2連覇を心からおめでとうと祝福したい。水煙で前が見えずに「経験したことがない視界の悪さ」の中、どのドライバーも全力で素晴らしいレースを日本のファンの前で魅せてくれた。

最後に、F1ドライバーや関係者に愛されている鈴鹿サーキットを「伝説」にしているもう一つの理由がある。それは暖かくも熱い声援を送ってくれる「日本のファン」がいることだ。これには全F1関係者が同意している事実であり、異論を唱える者は一人もいない。実際、F1関係者は伝説の鈴鹿に戻って来られて、朝から夜までファンと触れ合い、ずっと笑顔だったのが確固たる証拠で、F1もFIAも笑顔で承認するだろう。

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