先週末のF1第16戦インドGPで4年連続F1チャンピオンを確定させたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)は、祝賀パーティの最中にガレージで後片付けをするエンジニアを手伝っていた。
4連覇を果たしたベッテルを祝福するために、レース終了の数時間後にレッドブルのガレージを訪れた『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』のトビアス・グルナー記者が見たのはベッテルの意外な姿だった。
母国ドイツの記者の来訪に、ベッテルは「悪いけど、握手はできないんだよ。僕の手はものすごく汚れているからさ!」と言ったという。
その理由は、後片付けを担当するエンジニアたちが祝賀会を楽しむ時間を作るためにベッテル自らが彼らの作業を手伝っていた、という『Bild(ビルト)』の報道で明らかとなった。
レッドブルのメカニックのひとりは『The Independent(インディペンデント)』に「みんなに彼(ベッテル)のこういう面を知ってもらいたい」と話している。
ベッテルの隠れた素顔が垣間見える良いエピソードだが、ベッテルにアンチファンがいる理由はその性格だけが理由ではない。最年少記録を次々と破り、危なげないレース運びでチャンピオンを獲得したベッテルは、果たしてミハエル・シューマッハや、ファン・マヌエル・ファンジオ、アラン・プロスト、アイルトン・セナといった伝説のドライバーたちに肩を並べるほどのものなのだろうか。その疑問が今も払拭されていないのも、ベッテルが人気ドライバーになりきれない理由のひとつだ。
レッドブルのマシンデザイナーを務めるエイドリアン・ニューイのクルマがほかのクルマより圧倒的に速いからこそ、26歳にしてベッテルは4連覇を成し遂げたのか。この疑問に、ベッテルと親交が深いF1ボスのバーニー・エクレストンは「私はそうは思わない」と『La Repubblica(レプブリカ)』に答え、こう続けた。
「何を持ち出されても、私は(特定の要素のおかげでベッテルがチャンピオンになったとは)思わない。F1ではクルマが大きな役割を果たすことは事実だがね」
レッドブルのリザーブドライバーで、トロロッソ時代のベッテルとチームメートだったセバスチャン・ブエミは、ブラジルの『O Estado de S.Paulo(オ・エスタード・ジ・サンパウロ)』に、ベッテルは努力を重ねていると明かしている。
「レースに勝ったその翌日にはもうファクトリーにいて、次のレースに向けてシミュレーター作業に入っているんだ」
「ベッテルがクルマのおかげで勝ったなんてことはないよ。クルマの印象がマーク(マーク・ウェバー/レッドブル)によるものなら、絶対に同じじゃなかったはずだ」
ベッテルのトロロッソ所属時代に技術部門を仕切っていたジョルジオ・アスカネリは「セバスチャンを見ていると、アイルトン(セナ)を思い出す」と、80年代にレースエンジニアとして共に戦ったF1の伝説を引き合いに出した。
「ベッテルはドライバーになるために生きてきた。セナのようにね。セナも負けず嫌いだった。勝つために生まれてきた人間だ。それ以外のことには興味がないんだ」
さらに、レッドブルのアドバイザーであるヘルムート・マルコは、「フォーミュラBMWでセバスチャンは20戦中18勝している。それでもベッテルの頭には、なぜあと2つ勝てなかったんだろうという思いしかないんだ」とベッテルの勝利への執念について語った。
4連覇を勝ち取ったインドGPでの勝利は、ベッテルにとって6戦連続、今シーズン10勝目、キャリア通算36勝目だった。
ベッテルと同じドイツ出身のハンス-ヨアヒム・シュトックは、『Servus TV(セアヴスTV)』に対し、ベッテルはシューマッハがもつキャリア通算91勝の最多優勝記録も破るだろうと予想を披露している。
「15冠王者だって夢ではない。無理だとする理由があるか?」
「ベッテルはまだまだ若い。可能性は高いよ」
エンジニアや同僚からその仕事ぶりが評価されているベッテルだが、インドGP終了後にベッテルを乗せてスイスのチューリッヒに降り立った飛行機に乗っていたF1ドライバーは、ベッテルの友人であるキミ・ライコネン(ロータス)ひとりだったと『Blick(ブリック)』は伝えている。