2021年のF1開幕戦バーレーンGPでF1競技委員を務めたエマニュエル・ピロが、もしもマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がルイス・ハミルトン(メルセデス)を前に出すことを拒んでいたら、先週末のレースで勝者になっていたかもしれないと示唆した。
●【F1第1戦バーレーンGP】決勝レースのタイム差、周回数、ピット回数
ハミルトンの勝利で終わったバーレーンGP決勝だが、レース後に大きな論争を巻き起こしているのが“トラックリミット問題”だ。
近年のF1ではこのトラックリミットが厳密に運用されており、サーキットごとに指定のエリアにおいて基準よりも大きくマシンをコース外にはみ出させることが禁止されるようになっている。
そして、バーレーンGPの舞台となったバーレーン・インターナショナル・サーキットではターン4にトラックリミットが適用されることになっていた。
だが、フリー走行や予選においては、ドライバーがそのトラックリミットをオーバーした場合、そのラップタイムが抹消されていたものの、決勝では違反があってもFIA(F1統括団体の国際自動車連盟)のレース競技委員から特段の指導などが行われることはなかった。
そして、伝えられるところによれば、ハミルトンは多くの周回においてターン4でトラックリミットを超えて走行していたという。
かつてベネトンやスクーデリア・イタリアでF1を戦った経験を持つ59歳のピロはこの件に関して母国イタリアの『Corriere dello Sport(コリエーレ・デロ・スポルト)』に対し、その後メルセデスには警告が行われていたのだと次のように語った。
「ハミルトンは何度もトラックリミットを超えており、それによるアドバンテージを得続けていた」
「そのため、唯一チームと話をする権限を持つマイケル・マシ(F1レースディレクター)が、メルセデスに警告したんだ」
しかし、少なくともレース前半にはコースリミット違反があっても黙認されていただけに、今回のマシの判断には疑問が残るのも確かだろう。
実際のところ、レース終盤にトラックリミットをオーバーしながらハミルトンをオーバーテイクしたとして競技委員からもう一度ハミルトンを前に出すように指示され、結局それで勝利を失ってしまったフェルスタッペンは次のように語っている。
「誰もが警告を受けることなくそうやっていたのに、どうしてこんなことになったのか分からないよ」
レッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーもこの件に関して次のように疑問を呈している。
「腹立たしかったよ。我々はレースコントロール(競技委員)にそれ(ハミルトンのトラックリミット違反)が許されるのなら我々もやってもいいのかと質問したんだ。抜きつ抜かれつのバトルをしている中で、サーキットのあの部分を利用すればコンマ2秒のアドバンテージが得られるからね」
「レース中にそこを利用するのはいいと言っておきながら、そこで追い抜いてはならないなんて言うのはおかしいよ。黒白はっきりさせるべきなんだ。グレーであってはならないよ」
実際のところ、問題のターン4でフェルスタッペンがコースをはみ出しながらハミルトンをオーバーテイクした際、マシはすぐに無線を通じてレッドブルに対し、ハミルトンをもう一度前に出すよう指示を出していた。
そして、レッドブル首脳のヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)によれば、フェルスタッペンは潔くその指示を受け入れたという。
「マックスはそれが正しいことだと言っていたよ。レース委員長からのメッセージが我々のところに届いたときには、彼はもうすでにスピードを落とそうとしていたところだった」
「もしハミルトンにトップの位置を戻さなければどうなっていたのかは分からない」
だが、実際のところフェルスタッペンはレース後にハミルトンを前に出したことを後悔しているようなコメントを行っていた。
「こういう形で2位になるより、トップでフィニッシュしてペナルティを受けた方がよかったよ」
そう語ったフェルスタッペンは次のように付け加えた。
「それが僕のやり方なんだ。みんなが賛成してくれる必要はないよ」
こうした中、ピロはレッドブルとフェルスタッペンにはマシの指示通りにせず、そのまま最後まで走りきるという選択肢もあったのだと次のように語っている。
「レースディレクターが何かを強制することはない。彼には提案することしかできないんだ」
「フェルスタッペンが順位を戻したことで、我々にはこの件にそれ以上関わる必要はなかった」
しかし、もしもフェルスタッペンがハミルトンに順位を戻さずにそのままトップでチェッカーフラッグを受けていた場合にはどうなっていただろうか?
ピロはその質問に対して次のように答えている。
「フェルスタッペンがポジションを戻さなかった場合、最大5秒のタイムペナルティを受けていただろう」
つまり、フェルスタッペンがハミルトンをオーバーテイクした後、ゴールするまでに5秒の差を築くことができていれば、フェルスタッペンがバーレーンGPの勝者となっていた可能性もあるわけだ。
かつてフェラーリのテストチームの責任者を務めていたルイジ・マッツォーラは、あの状況でレッドブルがハミルトンを先行させたことには驚いたとイタリアの『Autosprint(オートスプリント)』に次のように語っている。
「もし私がレッドブルにいたならば、どうするかよく考えて、そして挑戦していただろうと思うよ」
「ハミルトンがレース中にやったことを考えると、レッドブルはもっと激しく戦うだろうと私は予想していた」
「恐らく、彼らはフェルスタッペンがまた楽々とトップの座を取り戻せると考えていたのだろうね」
こうした意見に対し、マルコは次のように語った。
「ハミルトンは賢かったよ。彼は追い抜かせておいてまたその位置を取り戻したんだ。その結果、マックスのタイヤは、そのときすでに劣化していたが、(コース外を走行したことなどで)ダストを拾ってしまって再びハミルトンに攻撃をしかけることができなかったんだ」