かつて黄金時代を築いた伝説的なF1コンストラクターであるマクラーレン・ホンダが今季復活した。だが、ここまでのところは悲惨としか形容のしようがない状況に陥っている。
先週末に鈴鹿サーキットで行われたF1日本GPでもポイントに手が届かなかったマクラーレン・ホンダは、コンストラクターズランキング9位という最悪の結果で今シーズンを終えることになりそうな状態だ・
■空中分解の兆しが見え始めたマクラーレン・ホンダ
2009年のF1チャンピオンであるジェンソン・バトンはこうした状況に失望し、F1からの引退さえ考えているとほのめかしている。また、2005年と2006年のF1王者であるフェルナンド・アロンソは、鈴鹿での決勝レース中にホンダのエンジンは“GP2(下位カテゴリー)用”としか思えず、運転していて“恥ずかしくなる”と無線で語っていた。そしてその声が、ホンダのトップマネジメントたちが見守る中で、テレビ中継を通じて全世界に流されるという事態となっていた。
今季のマクラーレン・ホンダ不振の最大の原因は、ホンダのパワーユニットの非力さにあるというのが通説だ。だが、ホンダF1プロジェクト責任者の新井康久は鈴鹿において、ホンダだけを責めるようなことは不当だと主張した。
新井がそうした発言をするに至った伏線のひとつが、F1イタリアGP(第12戦)が行われたモンツァでの記者会見で、異常とも思えるメディアからの攻撃を受けていたことだろう。
■モンツァでメディアをたきつけたマクラーレンを批判
日本GPが行われた鈴鹿で、マクラーレンとホンダの関係は今後どうなりそうかとスペインの『El Pais(パイス)』に尋ねられた新井は次のように答えた。
「コミュニケーションは非常にうまくとれていますし、日ごとによくなっています」
「ですから、どうして最近、特にモンツァで受けたような嫌がらせや攻撃が行われるのかまったく理解に苦しんでいます。モンツァではまるで警察から厳しい尋問を受けたような感じでしたからね」
モンツァでは、特にイギリスを中心としたメディアに従事する記者たちが、新井に対して非力なパワーユニットしか提供できていないことをマクラーレンに陳謝するとともに、辞任を考えるべきではないかというような言葉を浴びせかけていた。これに関しては、実は陰でマクラーレンが糸を引いていたためだと考えている者も多い。
■ホンダのパワーユニットだけが原因ではない
だが、新井は、現在の不調の原因はホンダのパワーユニットだけにあるのではないと次のように主張した。
「ホンダは我々とトップチームとの間にどういう違いがあるのかに気付いていますし、それを改善するために何を行っているのかということも分かっています。しかし、我々(ホンダ)だけにすべての責任があるように言われることを残念かつ悲しく思っています」
さまざまな状況証拠を見れば、マクラーレンとホンダの協力関係にひびが入り始めているのは確かなように見える。だが、日本へ来て体調を崩し、東京で数日安静にしていたと報じられたマクラーレン総帥のロン・デニスは、マクラーレンとホンダはこれからも一緒にやって行くのだと主張したとも報じられている。
■ひとつのチームになりきれていないマクラーレン・ホンダ
マクラーレンからの支援を得られていると感じているかとの質問を受けた新井は、「技術的な観点からはイエスです」と答え、さらに次のように続けた。
「しかし、またモンツァのことを蒸し返しますが、メディアはあれほど容赦ないレベルに至るべきではありませんでした。もちろん、我々だって失望しているんです。ですが、否定的なことばかり言っても何の役にも立ちませんからね」
マクラーレンがもっと前向きな支援を行ってくれることを期待していたかと問われた新井は次のように続けた。
「正直に言えば、そうですね」
「チームには、こうした状況を作り出さないようにする責任があるんです。ひとつのチームとして、団結するために必要なことをやろうとするべきですし、亀裂を作ってはなりません」
「ホンダはずっと正直にやってきましたし、我々の現状や、改善すべきことを説明してきました。しかし、ひとつのチームとしてそういうことを行ってきてはいません。誰に対してもそう言ってきていればよかったと思っています」
新井は、今にして思えば、すぐに厳しいスポットライトのもとに自分たちのパワーユニットをさらすより、今年ももう1年開発を継続していたほうがよかったかもしれないと認め、次のように続けた。
「非常に困難な状況を迎えるであろうことは分かっていました。ですが、同時に、2015年から始めることでより多くのことが学べるだろうとも考えていました」
「しかし、もう一度言いますが、すべてがエンジンの責任ではないんです。シャシーに関しても問題はたくさんあります」
■すでに来シーズンに向けて開発を進めているホンダ
そう主張した新井だが、ホンダのパワーユニットに関しては、内燃エンジンはいいものの、ERS(エネルギー回生システム)に大きな問題を抱えていることも認めている。先週末の鈴鹿のように長いストレートがあるサーキットでは、ドライバーたちは時には160馬力も劣った状態で戦うしかないのだ。
「今年中にこの問題を解決するのは難しいと思います。そのためには設計からやり直す必要がありますからね」
そう述べた新井は、次のように付け加えた。
「しかし、我々はすでに来シーズンに目を向け、それに取り組んでいます」