ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)がセバスチャン・ベッテル(レッドブル)を“素晴らしいドライバー”と繰り返し誉めている。ただし、乗っているのは“すごいマシン”と、付け加えているのだ。
3年連続でF1ドライバーズタイトルを取り、今年も選手権をリードしているベッテル。ハミルトンやフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)は互いに実力を認め合う間柄だが、ベッテルのことになると、なぜかふたりはマシンばかりを評価する。今週に入ってベッテルも、そんな彼らなど気にしない強気なところを見せている。
こうした発言は一種の批判ではないかとイギリス『Mirror(ミラー)』紙に指摘されると、2008年のF1世界王者ハミルトンは、マスコミこそ“不公平”だと切り返す。
「ベッテルなど同レベルのドライバーじゃないと、フェルナンド(アロンソ)や僕が彼をコキ下ろしているとマスコミはいうが、それはフェアじゃないよ。もちろん彼は最高のドライバーさ」と語るハミルトン。
ベッテルは「実に卓越したドライバー」だが、「乗っているマシンもまさに最高」なのだとハミルトンは考えている。
「彼も別のドライバーと組めば、もっと切羽詰まるだろうにね」とハミルトン。
「あくまで、彼とコース上でバトルを演じる僕の立場からのコメントだ。まあ、バトルといってもホンの数秒で、彼はあっという間に、手の届かぬ遠くに行ってしまうんだけどね」
「どんなドライバーもきっとこう思うはずだよ。“僕があのマシンに乗ったらどうなるかな?”ってね」
そんなハミルトンだが、他人のことをあれこれいう間に、なぜ自分が一度しかタイトルを取れていないのか胸に手を当てて考えるべきと、ふたりのF1評論家が口をそろえる。
ひとりは一流のF1エンジニアにしてテレビ解説者のゲイリー・アンダーソンだ。『Speed Week(スピード・ウィーク)』にアンダーソンはこう話す。「数年前にF1以外の人生を求めた時点で、何かが彼に起きてしまったんだと思う」
「私には、どこか集中を欠いているように見える。日曜日の決勝だけがF1ドライバーの仕事じゃないと理解すべきだ。1週間、毎日ずっと好成績を取ることしか考えちゃダメだよ」
「そんな姿勢の彼はもはや存在しないんじゃないかな」
もうひとりは1996年のF1チャンピオン、デイモン・ヒル。彼もアンダーソンと似たような意見だ。ヒルは『London Evening Standard(ロンドン・イブニング・スタンダード)』紙にこう語る。「ルイスのことを初心(うぶ)だなんていいたくないが、学ぶべきことが多いのは確かだ」
「キャリアを独自の手法で追い求めているようだね。しかし彼が身を置くF1は、厳しい世界なんだ」
「F1で成功を収めるためには、あるていど非情に徹して、しっかり集中し、ほとんどビジネスライクに物ごとを考えなきゃいけない」とヒルは付け加えた。
だが、その反面でアンダーソンは、たとえ最終的にハミルトンがF1ドライバーに求められる高いレベルの自己抑制を拒んだとしても、マクラーレンにはうってつけの人材だと考えている。
イギリスの名門チームは2013年、終わりのない危機状態にはまっている。「そんな状況なのにジェンソン・バトンはお人好しすぎるのではないか」と、アンダーソンは考えるのだ。
「ルイスだったら、もっと大騒ぎするはずだよ」