かつてブリヂストンのタイヤエンジニアを務めていたキース・ファン・デル・グリントが、F1アゼルバイジャンGP決勝で起きたタイヤバーストに関するピレリの説明は「典型的な政治的リアクション」だと批判した。
バクー市街地サーキットのストレートを高速で走行していた際にランス・ストロール(アストンマーティン)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の左リアタイヤが同じように破裂したわけだが、ファン・デル・グリントもその原因はタイヤの構造に起因するものだとの疑いを抱いていたようだ。
しかし、現在F1公式タイヤサプライヤーを務めているピレリは、それらのタイヤを調査した結果、設計や構造には何も問題はなく、さらにコース上のデブリ(異物)によって破損したとも考えられないと発表。
ピレリはそして、考えられる原因としてはアストンマーティンやレッドブルが何らかの方法で実際には最低空気圧よりも低い値で走行していたのではないかと示唆している。
イタリアの『La Gazzetta dello Sport(ガゼッタ・デロ・スポルト)』は、ピレリとFIA(F1統括団体の国際自動車連盟)は今後タイヤの温度や空気圧をさらに厳しくチェックすることになると次のように報じている。
「実際には、予選前及び決勝前に空気圧が測定された後、空気注入弁がFIAによって封印され、それを取り除くことはできなくなる」
また、温度計測器を用いてタイヤブランケット温度の確認が行われるとともに、レース後に冷えたタイヤの空気圧の確認も行われ、一定以上の差があった場合はペナルティの対象とすることも検討されているようだ。
レッドブルではピレリの調査報告に対して、すぐに声明を出し、自分たちはピレリの指示を守っていると主張したが、アストンマーティンも次のような声明を出し、違法なことは行っていないとしている。
「このチームでは常にピレリが規定した範囲内でタイヤを運用しており、今後もそれを継続していく」
こうした中、ブリヂストンがF1公式タイヤサプライヤーを務めていた時代にフェラーリのミハエル・シューマッハなどと共に仕事をしていたファン・デル・グリントはピレリの調査結果に疑問を呈している。
「あれを読むと、『実際のところ彼らは何を言っているんだ?』と思ってしまうよ」
母国オランダの『De Telegraaf(テレグラーフ)』にそう語ったファン・デル・グリントは次のように続けた。
「彼らは絶対に責任を取ろうとしないし、それはとても典型的なことだ」
「レッドブルは何も間違ったことはしていないと言っていたのに、誰がこんな馬鹿げたことを言っているんだ?」
2009年のF1チャンピオンであるジェンソン・バトンも、ピレリの調査が実質的に何も証明していないというファン・デル・グリントの意見に同調している。
「だったら、あの破裂の原因は何だったんだい?」
「アストンとレッドブルは与えられた限界を守り、デブリによるタイヤ破損の跡もなく、ピレリの欠陥や不具合もなかったということだよね」
「それじゃ、ブードゥー教の魔術かもね」
ファン・デル・グリントは、今回の件はピレリとF1チームたちとの関係改善には何も役に立たないだろうと考えている。
「多くのチームがピレリの言うことを真剣に受け止めていないのは明らかだよ。彼らがお互いに信頼し合っているとしたら、こういう手順を踏む必要はないはずだからね」
そう語ったファン・デル・グリントは次のように付け加えている。
「これはピレリとチームたちの間の信頼関係が欠如していることを示す例のひとつにすぎないよ」