フェラーリにはもはやセバスチャン・ベッテルの“未来”はない。
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そうコメントしたのはレッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコだ。
今シーズン後半に入って急激にパフォーマンスをアップさせたフェラーリだが、その一方でチーム内にはベッテルとシャルル・ルクレールの2人にどう対処していくべきかという新たな課題が発生しつつあるようだと報じられている。
それをはっきりと示すようなエピソードが先週末にソチ・オートドロームで起きてしまったのは確かだ。
■ベッテルが事前の取り決めを無視?
3番グリッドからスタートしたベッテルは、2番グリッドスタートだったルイス・ハミルトンをとらえると、一気にポールポジションからスタートしていたルクレールも追い抜いてトップに立った。
だが、その後チームが無線を通じてベッテルにルクレールを前に出すよう指示を出したものの、ベッテルはそれを無視して走行を続けていた。
ルクレールは、スタートでベッテルが自分のスリップストリームを使ってハミルトンと自分の前に出るという作戦をとることで事前にチーム内で合意していたのだと認めている。そうすることでフェラーリが1-2体制を築くことができるためだ。
そして、その後ベッテルがルクレールにトップの座を譲るという約束になっていたはずだが、ベッテルがそれを守ろうとしなかったというわけだ。
■フェラーリのやり方はおかしいとF1解説者
だが、ファンやF1関係者の中には、そうしたチーム内の取り決めそのものを快く思っていない者も少なくないようだ。
ファンが選ぶ「ドライバー・オブ・ザ・デー」にベッテルが選出されたこともそれを示すひとつの証拠だと言えるかもしれない。
ピットストップでルクレールに首位の座を明け渡し、最終的にはその直後にマシントラブルでリタイアを余儀なくされたベッテルがピットレーンスタートから5位まで大きく順位を上げたアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)を差し置いてベストドライバーに選出されるというのは通常であれば考えにくいことだ。
ドイツ出身の元F1ドライバーであり、現在はF1解説者を務めるクリスチャン・ダナーは、ドイツのテレビ局『RTL』に次のように語った。
「フェラーリがああいうやり方で介入する理由などないよ。そんな指示を出してしまえば自分たちのドライバーを傷つけるだけさ」
■ベッテルの方が速かったのは確かだとビルヌーブ
日頃辛口のコメントを行うことで知られる1997年のF1チャンピオンであるジャック・ビルヌーブもドイツの『Auto Bild(アウト・ビルト)』に次のように語っている。
「ベッテルは自分のクルマを決勝に向けてセットアップしていた。だからかなり速かったんだ。フェラーリは深刻な問題を抱えてしまったね」
ビルヌーブはさらにフェラーリの地元イタリアのテレビ局『Sky Italia(スカイ・イタリア)』にも次のように語った。
「彼らはあれほど早く順位を譲るようベッテルに告げるべきではなかったよ」
「彼らはその後、どうやってルクレールをトップの位置に戻すかを考えながらレースをしていた。最終的にはその罰が彼らに与えられたということさ」
ベッテルのストップによるVSC(ヴァーチャルセーフティカー)導入と、その直後に起きたジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)のクラッシュによってセーフティカーが導入されたことでメルセデスに先行を許してしまった件について言及したビルヌーブは次のように付け加えた。
「今日はベッテルの方が速かったし、前にいることがふさわしかったんだ」
■フェラーリはベッテルを犠牲にしたとマルコ
かつてベッテルとともに2010年から2013年まで4年連続でF1タイトルを獲得したレッドブルのマルコは次のように語っている。
「フェラーリは最速マシンを持ちながら、自ら勝利を逃してしまった」
「そして、最速だったにもかかわらず、彼らはセバスチャンを犠牲にしたんだ。彼にはもはやフェラーリにいても未来はないよ」
■チームはドライバーの役割を思い出す必要があるとメルセデスのボス
レース前には予期していなかった形で1-2フィニッシュという結果をソチで得たメルセデスだが、チームCEOのトト・ヴォルフは今回のフェラーリのエピソードについて次のように語った。
「それは、勝利を目指している2人のドライバーをうまく管理するのが簡単ではないことを示すものだよ」
「我々もチームとして同じことをやったし、今でも時と場合によっては行うが、それは簡単なことではないんだ」
そう語ったヴォルフは次のように付け加えた。
「だが、ああしたケースにおいては、チームにおけるドライバーの役割を思い出し、彼らの勝ちたいという気持ちを尊重することが必要だよ」