かつてマクラーレンやフェラーリで活躍した元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーが、今のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)は“闘争本能”を失っているようだと見ている。
レッドブル在籍時の2010年から2013年まで4年連続でF1チャンピオンに輝いたドイツ出身のベッテルだが、2015年にフェラーリに移籍し、今年で5年目を迎えているものの、未だに5回目のタイトルには手が届かない状態が続いている。
特に今年はキミ・ライコネン(現アルファロメオ)の後任として新たなチームメートとなった21歳のシャルル・ルクレールにパフォーマンス面でひけをとる状態が続いている。
今季のF1第14戦ベルギーGPでキャリア初優勝を飾り、フェラーリに今季初勝利をもたらしたルクレールは、フェラーリのホームレースである第15戦イタリアGPでも連勝をとげ、今やベッテルに代わってフェラーリのナンバー1ドライバーだと見なされるようにまでなっている。
■F1で誠実さを期待するのは無理
そのルクレールは、モンツァ・サーキットで行われたイタリアGP予選で、チームからベッテルにスリップストリームを使わせるように指示されていたもののそれに従わなかった。それに対してベッテルが予選後に不満をあらわにするシーンも見られた。
レッドブルの育成ドライバーであったベッテルがトロロッソのフルタイムドライバーになった時期に、同チームの共同オーナーを務めていたベルガーは、そのことに言及しながら次のように語った。
「はっきりさせておこう。F1にはそういうレベルのチームプレーなどないんだ」
「彼(ルクレール)がベッテルをばかにしていたのかどうかは分からない。だが、ずっと前からルクレールがものすごい闘争本能を持っていることは明らかだ。ベッテルは彼を頼ることなど絶対にできないよ」
ベッテルが今季はルクレールが自分をサポートしてくれるものと考えていたとしたらそれは“愚直”と言うべきか、と質問されたベルガーは次のように続けた。
「愚直とは言わないでおこう。だが、恐らく彼は誠実さを求め過ぎているのかもしれないね」
「そして、誠実なんてものはトップレベルでのスポーツではほとんど期待できないものだ」
実際のところ、レッドブル時代にはベッテルもチーム内でかわされていた取り決めを無視してチームメートだったマーク・ウェバーから勝利を奪い取るという行為を行っていたこともある。
■ベッテルは闘争本能を取り戻す必要がある
ベルガーは、これまで4回もF1チャンピオンとなり、巨額の報酬も手にし、私生活では結婚して子供たちにも恵まれたベッテルから闘争本能のようなものが失われつつあるのではないかと考えている。
「すごく単純な話だよ。もし闘争本能を失ってしまえば、もはやF1チャンピオンになる資格などないんだ。そのためにはもういちどそれを取り戻す必要がある」
■ルクレールの背後には大きな政治力も?
現在ルクレールのマネジャーを務めているのはニコラ・トッドだが、彼はフェラーリの元チーム代表であり、現在はF1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)の会長を務めるジャン・トッドの息子だ。
F1関係者の中には、このことによってルクレールはベッテル以上の政治力を持っており、それがフェラーリ内での両者の力関係の逆転に寄与しているのではないかとの見ている者もいるようだ。
だが、ベルガーはそうした見方に関して次のように語った。
「それは関係ないと思う。ベッテルがスピンしたり、ルクレールがスリップストリームに関する約束を守らなかったりしたことは、いずれもFIA会長やマネジャーには関与できないことだからね」
■モンツァでルクレールにおとがめなしだったのは疑問
だが、ベルガーはモンツァでルイス・ハミルトン(メルセデス)に対してアグレッシブ過ぎるディフェンスを行っていたルクレールにFIAのF1競技委員たちがペナルティーを科さなかったことに関しては疑問が残ると次のように付け加えた。
「モンツァでフェラーリに対して好意的な扱いがなされたことは看過できないね。私も同じ意見だ。何人かの紳士たち(F1競技委員)は恐らく目をつぶっていたのだろう」