フェラーリの母国イタリアのメディアたちは、2019年こそ間違いなくF1タイトルを獲得できると考えられていたフェラーリが開幕戦のF1オーストラリアGPでどうしてあれほどの力不足を露呈してしまったのか、どうにも腑に落ちないようだ。
2月にバルセロナで合計8日間にわたって行われたプレシーズンテストではフェラーリがライバルたちを圧倒するペースを披露。一方で現チャンピオンチームのメルセデスの2019年型マシンは大きく後れを取っていたように見えた。
ところが、いざ蓋を開けてみれば、開幕戦の舞台となったメルボルンのアルバート・パーク・サーキットではメルセデスが圧倒的な強さを発揮。優勝が期待されていたフェラーリはレッドブル・ホンダにも敗れ、表彰台にも上れないという結果に終わってしまった。
イタリアでは多くのメディアがメルボルンでのフェラーリ失速の理由についていくつかの仮説を展開しているが、その中で代表的なもの5つを紹介しよう。
【仮説1】フェラーリはエンジンパワーを落として開幕戦に臨んでいた?
メルボルンではサーキットに設けられたスピード計測地点においてフェラーリの最高速が異常とも見えるほど遅かったことが明らかとなっている。
かつて1991年から5年間フェラーリに所属していた元F1ドライバーのジャン・アレジは母国フランスのテレビ局『Canal Plus(カナル・プリュ)』に、自分がフェラーリの友人から耳にしたところによれば、プレシーズンテストで排気システムの異常を含む信頼性問題を抱えていたフェラーリは、メルボルンではエンジン出力を下げていたのだと語っている。
そのため、いくつかの速度計測地点においてフェラーリはライバルたちより時速20kmほど遅かったというわけだ。
今季からフェラーリのチーム代表に就任したビノットは、こうした見方に対して直接的な説明は行わず、次のように語っている。
「もちろん、我々はほかのチームのクルマとの比較も含め、すべてを分析するつもりだ」
「だが、概して我々のクルマはバランスが欠けていた。もちろんこれによってコーナー出口でのスピードに影響が及ぶことになる」
【仮説2】フェラーリはメルボルンでピレリタイヤをうまく扱えていなかった?
これに関しては特に説明の必要もないだろうが、ピレリがオーストラリアに持ち込んだC2、C3、C4と呼ばれる今年のドライタイヤの性能をうまく引き出すことができなかったということだ。
バルセロナで2月に行われたテストのときよりもメルボルンでの路面温度がかなり高かったのはもちろんだが、今年のフェラーリF1マシンSF90は路面温度が低いコンディションではうまくタイヤ性能を引き出せるものの、高温にうまく対応できない特性を持っている可能性もありそうだ。
【仮説3】フェラーリのウイングは荒れた路面には合わない?
フェラーリは今季ライバルたちとは異なる空力コンセプトのフロントウイングを投入している。路面が非常になめらかなバルセロナ-カタルーニャ・サーキットではそのウイングによる効果がうまく発揮されたものの、公道を利用し路面のでこぼこが多いアルバート・パーク・サーキットではうまく機能しなかったのではないかとの推測もある。
レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、「フェラーリは突然、異常なほど角度のついたウイングを使っていた」とドイツの『Auto Bild(アウト・ビルト)』に語り、フェラーリの空力コンセプトがグリップの低いメルボルンにはうまく適応できなかったのではないかと示唆している。
マルコは2019年仕様のピレリタイヤは「かなり硬くて、グリップが低いサーキットでそれらをうまく使うのは難しいんだ」と続け、次のように付け加えている。
「我々もその問題を抱えていたよ。だが、いったん正しい温度にすることができれば、パフォーマンスはすごく向上するんだ」
【仮説4】フェラーリは単にマシンセットアップを間違えた?
事前の予想をくつがえしてメルボルンで見事な1-2勝利を飾ったメルセデスのトト・ヴォルフ(エグゼクティブディレクター)は、ドイツの『DPA通信』に次のように語っている。
「新車で適正なセットアップを見つけるのは難しいことだし、フェラーリがそれに失敗したのは確かだ。だが、根本的な問題を抱えているわけではないよ」
そして、今年の開幕戦を4位で終えたベッテルも次のように語った。
「僕たちは強いクルマに必要なすべての要素を持っている。そして、すべてのサーキットがメルボルンと同じではないよ」
【仮説5】フェラーリはタイヤ戦略ミスを犯していた?
ベッテルが最終的にメルセデスばかりかレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンにも大差をつられてしまったのは、チームがタイヤ戦略に関する判断を誤ったためかもしれない。
ベッテルはオーストラリアGP決勝をほかのトップ10スタートドライバーたちと同様に予選Q2でベストタイムを刻んだユーズドソフトタイヤでスタートしていた。だが、チームは前を走るハミルトンをアンダーカットするためにレースが15周目を迎えるタイミングで早めにベッテルをピットに戻してミディアムタイヤに交換。
ハミルトンもすぐにこれに対応してタイヤ交換を行ったことで順位をあげることができなかったベッテルだが、終盤にはタイヤの劣化にも苦しめられ、26周目までソフトでひっぱったフェルスタッペンに簡単にコース上でオーバーテイクを許してしまった。
タイヤ交換のタイミングを遅らせたバルテリ・ボッタス(メルセデス)やフェルスタッペン、そしてシャルル・ルクレール(フェラーリ)らが終盤もいいペースで走行できていたことを考えれば、フェラーリがベッテルに適用したタイヤ戦略が表彰台すら逃すことになった大きな要因のひとつだった可能性は高い。
イタリアの『Autosprint(オートスプリント)』は次のように書いている。
「ベッテルに適用された戦略は、彼ら(フェラーリ)がピレリのミディアムタイヤがどう機能するかを理解できていなかったことを示している」