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佐藤琢磨「自動運転や電気自動車の恩恵を受けたい」F1とインディと車の技術の進歩を語る。未来のクルマとモータースポーツはどうなる?

2017年10月14日(土)6:29 am

【特集】「未来のクルマとモータースポーツ」では、モータースポーツも自動車もかつてないほどの大きな変化を迎えている今、各界で活躍するプロフェッショナルがどのように考えているのか、「未来のクルマとモータースポーツ」について語ってもらう。


2017年インディ500チャンピオンの佐藤琢磨。F1を夢見てイギリスで武者修行し、F1では日本人2人目となる3位表彰台に上がった。そしてアメリカでは2017年インディ500チャンピオンとなり、世界の歴史に名を残す一流レーシングドライバーの仲間入りを果たした。レース界および自動車産業が過渡期にある今、世界最先端技術を体験してきた佐藤琢磨が、「未来のクルマとモータースポーツ」について語ってくれた。

ーー琢磨選手が鈴鹿のSRS-F(鈴鹿サーキット・レーシングスクール・フォーミュラ)でレースを始めてから20年が経とうとしていますが、当時ここまでクルマがハイテク化していると思っていましたか?

佐藤琢磨(以下、琢磨)「例えば電気自動車がここまで普及しているなんて、当時は想像できませんでしたね。科学万博やモーターショーで電気自動車(EV)は登場していましたが、まだ身近ではなかった。ここ10年のようにハイブリッドのクルマがこれだけ普及しているとは思いませんでした。

ここから先の未来には自動運転の普及やインフラが整えば充電の必要ない自動車も登場してくると思いますが、ハイブリットは当たり前のようなってきたし、完全なEVのクルマも出てきた。

レースの世界でもF1でKARS(カーズ/運動エネルギー回生システム)が導入されて、WEC(世界耐久選手権)もハイブリッドのマシンで戦っているし、フォーミュラEのように電気自動車でレースする時代になりましたからね」。

ーーレーシングカーには常にロードカーより一歩先の技術が導入されていきますよね? レーシングドライバーとしては、レーシングカーの未来はどのように変わっていくと思いますか?

琢磨「テクノロジーの進歩は楽しみではありますが、人間が操るというスポーツ性は残さねばならないし、レーシングカーの醍醐味でもあるエグゾーストノートの迫力も失って欲しくないです。ただ、個人的には電気自動車は好きですよ。公共の交通機関はEVであって欲しいですよね。静かだし、匂いもないし、振動もなくて、環境に優しい。街中はストップ&ゴーばかりですし、回生エネルギーを効率よく使える電気自動車の良さが出ると思います。

 この先レースの世界を見ていくと、次世代のハイブリッド、そしてAI(人工知能)の世界は確実に来るでしょう。限定的な範囲で見れば、人間はAIにかなわない。

 自分が経験したF1時代のトラクションコントロールを例えて言うと、今の市販車のトラクションコントロールは、万が一の時の補助システムと言ったら良いのかな、クルマが滑り出そうとするのを抑える制御をするシステム。挙動を安定させる、安全のためのシステムですよね。

 でも僕がドライブしていた10年前のF1でさえもトラクションコントロールはもちろんパフォーマンス重視。技術もすごく進んでいて、あの時にかなわないと思いました。例えば雨の中で900馬力を伝えるのに人間の足だけでは限界もあったし、当時のチャンピンであったミハエル・シューマッハでさえ、トラクションコントロールの禁止は危ないと言っていたくらいです。

 “フィードバック”ではなく“フィードフォワード”、つまり現状を随時更新しながら次の動きを演算して最適な出力を弾き出している。アクセルを踏んでからエンジンがタイヤにトルクを伝えるまでのギャップをすでに先読みして、常にタイヤが適正なグリップを得られるようにしているんです。滑りやすい路面では、全くかなわなかったですよ。当時の最先端技術ではありましたけど、そのような技術が市販車にも反映される時代が確実に来ているんですよね。

 人間の錯覚や判断ミス、操作エラーが事故を引き起こしているわけで、AIがそれに代わったとしたら事故も、劇的に減ることになるでしょう。

 普段、街中を走っていてヒヤリとすることもありますけど、コンピューターの補助システムによって事故が減っていけば、安全で快適なカーライフになるでしょうし、歩行者も安心できますね。

 レーシングカーの世界はR&D(研究開発)が日常ですから、そこで開発された新しい技術はどんどん市販車に反映されていくと思います」

ーー琢磨選手はフォーミュラEも初開催の時にドライブしましたが、あれが未来のレーシングカーのイメージなのでしょうか?

琢磨「どうでしょう。必ずしも100%そうだとは言い切れないかもしれない。電気自動車は音がない。それは長所であるけど、スポーツドライビングや、レースの世界においては欠点かもしれない。モータースポーツの魅力の一つは音ですからね。

 フォーミュラEは未来の形としては、高いポテンシャルを秘めていると思います。生まれたばかりのシリーズだし、都市の中心部で開催できるのは魅力ですから、確実に育っていって欲しいとは思います。でも、将来的にF1やインディカーにとって変わるかと言われたら、個人的にはそうはなって欲しくない。電気自動車の波はレースの世界にも間違いなく来ると思います。

 でも完全に電気に変わる前に、内燃機関用の代替燃料が発明されたりする可能性もあります。すでに燃料電池や水素を使ったエネルギーが生まれているし、石油に代わるものが出て来ると思います。内燃機関の持つ機械の魅力はとても大切だと思うし、サーキットに来た時に誰もが感動する、あのエンジンサウンドは残して欲しいなって思いますね。

 同じことがスポーツカーにも言えて、次世代燃料によって内燃機関も何かしらの形で残して欲しいと思います」。

ーー環境問題を考え、カーマニュファクチャラーは大きく電気自動車の方へ舵を切って、脱内燃機関、脱CO2の方へシフトしています。

琢磨「それはわかりますし、そうなっていくでしょう。化石燃料を使うクルマは、ものすごくプリミティブ(原始的)な存在になるでしょうね。でも触媒の技術も同時に進むだろうから、内燃機関のスポーツカーもきっと残ってくれるでしょう」。

ーーテクノロジーが進めばレースの世界においても、レーシングドライバーの仕事が少なくなっていくのではないでしょうか?

琢磨「それはあまり変わらないと思います。モータースポーツとして、これからの未来の生活がどう変わっていくかにもよりますけど、少なくとも自動車の歴史が150年弱くらいでしょうか。でもインディアナポリスでは、もう100年も前からレースをしていたわけで、当時舗装路もなく、日本ではようやく自動車が走り出そうかという時に、すでに500マイルのレースをしていたわけですからね。そんなに簡単にレースがなくなったりはしないと思いますよ。レースを楽しいと思える文化と、それを支える土台があればレースは続くと思います。続く限り、レースを目指す若者もいますしね。

 将来、自動運転の時代になるでしょう。僕だって家を出てどこかまで行く時に、ピッとボタン一つでクルマが連れてってくれる。寝ても、何をしていてもいい究極のパーソナルモビリティが生まれるでしょう。みんなが制御されたクルマに乗る時代になったら、事故も限りなくゼロに近くなるでしょうし。

 となると、今度は運転するとはどういうことかという話になって、クルマの運転そのものがフォーカスされるようになって来る。自動で行けるのに、わざわざクルマを運転しようとする人は、そこの運転に楽しさを見出さない限り、そうしないでしょう。本当は目的地に行くまでのそのドライブそのものが楽しい時間だったりするんですけどね。

 でも、もしそんな時代になったとしたら、概念そのものが変わってきて、クルマを運転できる=特殊技能になるかもしれません。街中のドライビングもサーキットでのドライビングも、これまで以上にフォーカスされて、よりクルマを操る楽しさを伝えられるきっかけになるでしょう。運転できる=すごいこと!になりますね。

 僕だって自動運転や電気自動車の恩恵は受けたい。クリーンな社会で振動がなく静かなモータリゼーションの未来を望みます。でもその一方でスポーツカー、レーシングカー、モータースポーツの生き残る道、共存できる道を探していきたいですね。

 自動車メーカーが向かおうとしている未来は僕もとても楽しみだし、その中でスポーツカーとモータースポーツの世界をどう共存させて行くかは大事ですね。

 これから開催される東京モーターショーには、未来のクルマが並んでいるわけですよね。美しいフォルムのクルマがあったり、新しい機能を搭載したクルマが並んでいて、いつか来る近未来を象徴していて、ワクワクします。ぜひ会場に足を運んで、未来のクルマを見て欲しいと思います」。

佐藤琢磨は、普段のクルマ移動では安全性と利便性が高まる自動運転や地球環境にも優しくて静かな電気自動車を望み、レースでは音やスポーツ性という人間の本能的な部分を求めている。F1、そしてインディ500という世界の舞台で戦い続け、最先端技術と人間の限界を先取りして経験してきた分だけ、我々よりもクルマの未来の姿が具体的に見えているようだ。

F1を見ていてもわかるように技術は日進月歩だが、今の最先端技術は第45回東京モーターショー(2017年10月27日(金)〜11月5日(日)、東京ビッグサイト)で見て・感じることができる。F1でも磨かれてきた最先端技術を身近に感じることで、佐藤琢磨が語ってくれた「未来のクルマとモータースポーツ」の世界を垣間見ることができ、我々も具体的に未来を想像することができるようになるのだろう。体験した時、どんな未来が見えるのだろうか。

取材・写真:松本 浩明

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