F1に2017年から2種類のエンジンを並行導入するという計画が進められているが、これに関してはF1関係者の間にもさまざまな見方があるようだ。
F1最高責任者バーニー・エクレストンと、統括団体FIA(国際自動車連盟)会長のジャン・トッドが手を結んでこの計画を推進しようとしていると伝えられているが、このきっかけとなったのはフェラーリがほかのチームへのエンジン販売価格に上限を定めるという案に対して拒否権を発動したことだと言われている。
エクレストンやFIAが進めようとしているのは、F1にイルモアやコスワースという自動車会社系列ではない独立系のエンジンメーカーを参入させ、現在インディカーで用いられているような2.2リッターV6ツインターボエンジンを供給させるというものだ。このエンジンは、現行の1.6リッターターボエンジンとERS(エネルギー回生システム)が組み合わされたパワーユニットと並行して使用されることになる。
だが、イルモアの創設者であり現在も責任者を務めるマリオ・イリエンは、最新技術の粋を集めて作られた現在のパワーユニットと戦うことができるようにするためには、新エンジンはさらにパワーを発揮できるものとする必要があると発言している。
2種類のエンジンを並行導入し、それらが同等のパフォーマンスを発揮させようとするためにはさまざまな問題が発生することは間違いないだろう。現行パワーユニットと、ERSを持たないエンジンでは、パワー発生の仕組みが違ってくるし、当然燃料の消費量も異なってくる。それらをどう調整して同じ土俵で戦わせるかということはかなり大きな課題となるはずだ。
ロータスのテクニカルディレクターを務めるニック・チェスターは10日(火)に次のように語った。
「それはかなりやっかいな問題だよ。F1が二層構造となってしまえば、運営は非常に難しくなるだろうね」
「性能を均等化しようとすればさまざまな挑戦が必要となるだろうし、2つのエンジンの特性が異なっているだけに、とりわけ難しい作業となるだろう」
だが、この新エンジン導入案を積極的に支持している者もいる。元F1ドライバーのステファン・ヨハンソンもそのひとりだ。ヨハンソンは今週、自身のウェブサイトの中でその計画は現在のF1が抱える政治的状況を考えれば好ましい選択肢だとし、次のように主張した。
「もし彼らが理にかなったやり方でそれを導入できるのであれば、私は絶対そうするべきだと思うね」
レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコも、前向きにとらえているひとりだ。マルコはドイツの『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』に次のように語った。
「レースも面白くなるんじゃないかな。レースのいろんな段階において、クルマが異なるコンディションに置かれることになるだろうからね」
だが、やはり元F1ドライバーであり、現在はテレビのF1解説者を務めるマルク・スレールは少し違った見方をしているようだ。
スレールは、エクレストンやFIAが提唱している“クライアントエンジン”と呼ばれる独立系メーカーエンジンを導入するという案は、実際には現在のエンジンメーカーたちに圧力をかけるための作戦のひとつに過ぎないのではないかと疑いの目を向けている。
「基本的に、これらすべての話し合いは権力闘争の一環でしかないんだ」
「私は、FIAとバーニーが、自動車メーカーがあまりにも権力を持ちすぎたことをはっきりさせてきたと思っている」
『Speedweek(スピードウィーク)』にそう語ったスレールは、次のように付け加えた。
「代替エンジンの導入計画が発表されたが、それは、彼らが本当に望んでいることを達成するためのプレッシャーに過ぎないのではないかと想像しているよ。F1にはひとつのタイプのエンジンだけでいいのだが、もっと好ましい条件でそれを使うことができるようにするためにね」