現在のF1は、もはやかつてのような「男の世界」ではなくなっている。
そう主張するのは、ウィリアムズのチーム副代表を務めるクレア・ウィリアムズだ。クレアはチーム創設者であり、現在もチーム代表を務める父親フランク・ウィリアムズの仕事を補佐しながら、今季はウィリアムズをチーム別ランキング2位に引き上げるために頑張っている。
7月21日に39歳となったばかりのクレアは、ドイツの『Der Tagesspiegel(ターゲシュピーゲル)』に、F1における女性の存在について次のように語った。
■ウィリアムズでは技術スタッフの8%が女性
「F1は、10年前、あるいは5年前と比べても、かなり違ってきています」
確かに、かつては女性が表に出ることはほとんどなかったF1だが、現在ではザウバーでもインド出身のモニシャ・カルテンボーンがチーム代表と共同オーナーを務めるなど、女性の進出も目立ってきている。
さらに、ウィリアムズでは女性ドライバーのスージー・ヴォルフがテストドライバーを務めていることでも知られている。
「今ではモータースポーツの世界にも影響力を持った女性がたくさんいるんです。私たちウィリアムズにもメカニック、エンジニア、空力エンジニアがいますが、そのうち8%が女性ですからね」
「それほど多いとは聞こえないかもしれません。でも、4年前には0%でした。まだ望ましい状態にまでは至っていませんし、そのためにはやるべきことがたくさん残されています。ですが、少しずつ改善されているんです」
■グリッドガール=女性蔑視(べっし)とは思えない
F1への女性進出を推し進めたいと考えているクレアだが、その考え方と、グリッドガールの廃止というような動きとは必ずしも一致してはいないようだ。
例えばWEC(世界耐久選手権)ではすでにグリッドガールを廃止したことが知られており、F1でも今年のモナコGPではグリッドガールの代わりに「グリッドボーイ」がプラカードを持ってコース上に並ぶという光景が見られていた。
「グリッドガールというのは、モータースポーツで長く続いてきた伝統ですからね」と語ったクレアは、次のように続けた。
「グリッドガールを禁止する必要があるのかどうか、私には分かりません。なぜあれを女性に対する時代遅れなイメージとしてとらえる必要があるんでしょう? 彼女たちだって強制的にやらされているわけではないでしょう?」
■いまだに難しい女性ブランドのF1進出
だが、クレアは、女性が本当の意味でF1に進出するにはまだやるべきことが山のように残されていると語った。例えば、クレアは女性ドライバーのヴォルフにF1デビューのチャンスを与えるために女性向けの企業をスポンサーにつけたいと考えて努力したものの、それに失敗した経緯もあるからだ。
「私たちのスポンサーの中にも、私たちが女性ドライバーを抱えていること、そして私自身やスージーがやっていることをうまく利用するのはいいことだと考えている人たちが大勢います」
「しかし、F1には純粋に女性だけのブランドがないというのも事実なんです。私たちには(スポンサーとして)ユニリーバがついていますし、彼らはユニセックスブランドです。ですが、純粋に女性のためのブランドはここ(F1)に参入することを望まないんです。私にはその理由が分かりません」
「F1が男だけの世界だというのは当てはまりません。ファンの38%は女性なんですから」
■ヴォルフの登用は実力によるもの
F1の世界にも以前よりも女性がたくさん進出してきているのは事実だとしても、ことドライバーに関しては、まだ男性ドライバーと対等に戦えるとは考えられていないのが事実だろう。
これまでF1に参戦した女性ドライバーたちについては、その実力よりも女性であることが珍重されてのことだった。そしてスージー・ヴォルフに現在ウィリアムズでのテストドライバーというポジションが与えられているのも、夫のトト・ヴォルフが、ウィリアムズにエンジンを供給するメルセデスのモータースポーツ責任者であることが関係しているのだと見られている。
だが、クレアは、ヴォルフがウィリアムズのテストドライバーを務めている理由は「彼女のパフォーマンスによるものです」と主張し、次のように続けた。
「もし私が言っていることが信じられなければ、彼女と仕事をしているエンジニアリングチームに聞いてみればいいですよ」
「彼女は、すべてのレースで私たちのドライバーが乗るクルマについて、その開発の手助けをしてきました。彼女がその仕事をうまくこなせていないとすれば、私たちが彼女をチームに置いておく必要はないでしょう?」
■ヴォルフにもっと敬意を払うべき
「私たちはF1タイトル獲得を狙うという野心を持ったチームですし、自分が何をやっているのか分からないようなドライバーを起用するというリスクを冒すつもりはありません」
「私に言わせれば、スージーは特定の役割において、チームの重要なメンバーなんです。そして彼女はその仕事を非常に効果的にやってくれています。そうでなければ、彼女はここにはいないでしょう」
クレアは、F1ドライバーとなることを目指して頑張ってきた32歳となるスージーへの偏見を捨て、正しく彼女の実力を評価することが必要だと次のように付け加えた。
「彼女はすでに20年にわたってそういう偏見と闘い続けるしかありませんでした。そして、彼女はF1にまで上ってきたんです。みなさんももっと彼女に敬意を払うべきですよ」