3日(水)に、カタールのドーハでFIAの下部組織である世界モータースポーツ評議会が開催され、10名の委員によって構成されたジュール・ビアンキ(マルシャ)の事故調査委員会から、ほぼ400ページにおよぶ報告書が提出された。
■ビアンキの事故原因は減速不足と断定
前メルセデスAMGチーム代表のロスブラウンや、フェラーリの元チーム代表であるステファノ・ドメニカリ、さらにブラジルの伝説的な元F1チャンピオンであるエマーソン・フィッティパルディらによって構成された委員会が提出した報告書には、今年の日本GP決勝が行われた鈴鹿サーキットでは当時雨水が川のようになってコースを横切っていたにもかかわらず、ビアンキが「クルマのコントロールを失わないように十分に減速することを怠った」と記載されている。
報告書によれば、レースを監督するFIAの手順は、二重黄旗の振動も含め、すべてその通りに行われていたものの、ビアンキは「リアが滑り始めたクルマを過度に制御し過ぎていた」とされている。
■安全制御システムも機能せず
さらに、その報告書には、コース脇にいた作業車の下部に時速126kmで激突したビアンキが、横滑り状態となったクルマの中で「アクセルとブレーキを同時に踏んでいた」ことも明らかにされている。
こうした場合には、本来はアクセルが無効とされエンジンが停止されなくてはならない。だが、報告書には、ビアンキが運転していたマルシャのF1カーに搭載されていたブレーキ・バイ・ワイヤー・システムが「安全制御のための設定とは矛盾していたことが立証された」とされ、次のような説明が付け加えられている。
「安全制御システムがドライバーの意図に反してエンジンのトルクを無効にすることができなかったという事実が、衝撃速度に影響を及ぼしていたかもしれない」
さらに、報告書には、ビアンキは「そうした状況に動揺し、彼のフロントタイヤがロックしてしまったこともあって、クレーン車を避けるようにステアリングを切ることができない状態だったと考えられる」と付け加えられている。
■仮にキャノピー付きのF1カーでもビアンキを救えなかった
また、委員会は、ビアンキのヘルメットは作業車の下部に非常に大きな力で打ちつけられており、「コックピットが(キャノピーのようなもので)ふさがれていたとしても、あるいは作業車の下部に(衝撃緩和用の)スカートが施されていたとしても、ビアンキが負ったけがの程度を軽減することは不可能であった」と断言している。
同委員会では、今後に向けた対策として、FIAに対して、黄旗が振られている区間では制限速度を設けることや、日没時刻の4時間前以降にレースを開始しないこととする、というようなことを提案。
「さらに、F1カレンダーの見直しを行い、可能であれば、その地方が雨期を迎えるときにレースを開催しないようにすることも推奨される」と委員会は付け加えている。
■一方的にドライバーに非があるとの印象を受けると元F1ドライバー
しかし、ビアンキと同じフランス出身の元F1ドライバーであるパトリック・タンベイは、その報告書はクラッシュを起こした原因がビアンキにあると真っ向から非難しているような印象を非常に強く与えるものだと非難。FIAはこの件から「手を引く」と断言したようなものだと主張している。
65歳となる元フェラーリドライバーのタンベイは、フランスの『RMC Sport(RMCスポール)』に次のように語った。
「ドライバーを責めるなんて恥ずべきことだと思うね。保険上の利害とか、何かそういうことがあるに違いないよ」
「これは責任逃れのための判定だ。だが、ドライバーだけを責めるというのは少しばかり酷というものじゃないかと思うがね」とタンベイは付け加えている。