シンガポールに夜が訪れ、F1第14戦の会場をカクテルライトが煌々(こうこう)と照らすころ、パドックではFIA(国際自動車連盟)の無線規制が話題の中心だった。
そもそものいい出しっぺは、F1 CEOバーニー・エクレストンだ。
18日(木)、報道陣に囲まれたエクレストンは次のように語った。「そう、私の発案だ」
それより前、シンガポールの町に姿を現したルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのメルセデスAMGコンビは、今回の動きを歓迎していた。
「無線でああだこうだ指示されなくなるから、ドライバーはみんな喜んでいるよ」と、エクレストン。ピットウォールとドライバー間で走りに関する、すべてのやり取りが無くなるのだ。
「何がよくて何が悪いかは、ステアリングを握るドライバーが把握しているはずだ」
これまで現代F1の方向性を厳しく非難してきたエクレストン。今後さらにテコ入れがありそうである。うわさでは、遠くない将来にテレメトリーが廃止されるかもしれないという。
「規則では、”ドライバーは外部の補助なしに一人で車を運転しなければならない”とある。ところが彼らは、手とり足とり教えられながら運転しているじゃないか。私にいわせれば”誘導”だ。たとえ無線指示を取り払ったところで以前と変わらない」
「ドライバーエイドは多岐に渡る。そんなものは、あってはならない」と、エクレストン。
18日(木)の日暮れ時、ドライバーの面々がパドックに集合するにつれ、実は、必ずしも全員が無線規制に賛成ではないことが明らかになってきた。
「おそらく彼(エクレストン)は1980年代のドライバーたちと話でもしたんだろう。彼らは現代のマシンがどんなものか知らないからね」と語るのは、フェリペ・マッサ(ウィリアムズ)だ。
「今のマシンは非常に複雑だ。(それに)セッティングを誤ると2周ももたず壊れてしまう」と、マッサは解説する。
「そんなことが続けば、ドライバーズミーティングは大荒れになる」
セルジオ・ペレス(フォース・インディア)も同意見だ。「レース毎に大きな変更を加えるのは感心しないね」
F1世界王者セバスチャン・ベッテル(レッドブル)は、複雑な構造のエネルギー回生システムを車で制御するのはドライバーにとって一苦労だと、次のように話す。
「ガレージにたくさん人がいるのは、そのためなんだけどね」と、ベッテル。
「彼らは別にビールを飲んでレースを楽しんでいるわけじゃない。仕事をしに来ているんだ」