F1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)が、今週末のF1シンガポールGP(21日決勝)以降、セッション中にチームからドライバーに対して無線を通じて「パフォーマンス向上」につながるような助言や指示を行うことを禁止する決定を行ったことはすでに報じられている通りだ。
そして、これに関して今季のF1タイトル争いを演じているメルセデスAMGのドライバーがいずれも歓迎する意向を表明した。
現在ポイントランキングをリードするニコ・ロズベルグは、イギリスの放送局『Sky(スカイ)』に対し、ナイトレースとして開催されるシンガポールGPからそうした無線による助言が禁止されるということは大きな話題となっていたとしつつ、次のように語った。
■もっと純粋なレースになるとロズベルグ
「ファンはみんなそれを望んでいたみたいだし、そうすることが正しいことじゃないかな」
「僕としては、それは間違いなくいいことだと思うよ。もっと純粋にレースが行われることになるはずだ」
「今までは、彼ら(エンジニア)が無線で僕たちに伝えてきたことをかなり参考にしていた。でも、これからは自分たち自身でやっていかなくてはならないんだからね」
ロズベルグは、無線通信内容を制限する新たなルールにより、ドライバーには新たな挑戦が生まれるだろうと次のように続けている。
「全く違ってくるよ。頼れるのは自分しかいないし、どうすればいいかを自分で判断しなくてはならなくなるからね」
「そのことで、もっと面白くなるんじゃないかと思うよ」とロズベルグは続けた。
「これまでのコミュニケーションが100パーセントだったとすれば、それが20パーセントくらいに減るわけだから、これは大きな変化だよ」
現在、F1タイトル争いのライベルであるチームメートのルイス・ハミルトンに22ポイント差をつけているロズベルグは、今週メルセデスAMGのファクトリーで、無線通信がない状態でシミュレーターによる走行練習を行ったことを明らかにし、クルマの機能に関する詳細な事項についてこれまでよりも「ずっとたくさんのことを覚えなくてはならなかった」と認めている。
「でも、すべてうまくいったよ。これは正しい方向性だよ」とロズベルグは付け加えた。
■タイトル争いに影響がでるかもとハミルトン
一方、チームメートのハミルトンも今回のルール変更を歓迎している。だが、ドライバーにとってはそれに慣れるための時間も必要かもしれないと考えているようだ。
「そのアイデアは本当にいいと思う」
ハミルトンはそう語ると、次のように続けた。
「それによって難しくなることもあるよ。例えば、エンジンの戦略がそうだ。どの戦略を使うべきかを知るにはどうすればいいだろうね?」
ハミルトンはさらに、今回のルール変更はロズベルグとの間のF1タイトル争いにも影響を及ぼす可能性もあると次のように語っている。
「僕たちは常に同じ戦略をとっているから、これはすごく重要になるだろうね」
「これまでに何度かニコが僕とは違う戦略をとって、僕より大きなパワーを使ったり、パワーを抑えたりしたことがあったんだ。そういうことによって不利に立たされることもあるからね」
「まぁ、トラブルさえ起こらなければ、あとはなんとかできるはずさ」
さらに、ハミルトンは今回のルール変更によってF1がかつて「自分がレースを学んでいたとき」と似たような形となることで、自分がライバルたちよりも有利に立つことができるのを期待していると次のように続けた。
「これが僕にとってプラスに働くことを期待しているよ」
「昔カートをやっていたころを思い出すよ。僕たちは何のデータも持っていなかったから、僕がどこで速かったかとか、僕が何をやっていたか、どんな技を使ったかなんて、誰も分からなかったんだ」
「僕は、自分自身にやるべきことが委ねられるというのは本当に歓迎だよ」とハミルトンは付け加えた。
■ディスプレイ仕様による有利、不利も発生か
一方、レッドブルのダニエル・リカルドは、今回のルール変更に関して、もしエンジニアからの助言がなければ、F1ドライバーたちは「間違った方向へ曲がって、ウォールに突っ込んで終わってしまうかもね」と笑いながら語り、冗談のネタにしている。
だが、ドイツの『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』は、リカルドもあまり笑ってばかりはいられないかもしれないと警鐘を鳴らしている。
今季はほとんどのチームがマクラーレンから供給された大型のディスプレイが付いたステアリングを使用している。そして、そのデジタルディスプレイを通じて多くのデータがドライバーにもたらされている。
しかし、レッドブル、ウィリアムズ、そしてロータスではそのマクラーレン製のディスプレイを使っていない。それらのチームではディスプレイを通じてドライバーが得られる情報がライバルたちよりも少なくなるということだ。
「それじゃ厳しいことになるだろうね」とロズベルグ。
「でも、僕たちもすべての手順を覚えておかなくてはならない。これまでは、エンジニアがどのスイッチをどのポジションに合わせればいいか伝えてくれていたわけだからね」
今回FIAが禁止したのは無線による通信だけではなく、ピットボードやステアリングディスプレイを通じての「パフォーマンス関連」情報伝達もできなくなる。それらは記号化や暗号化されることも許されない。
「いずれにしても」とロズベルグは続けた。「運転しながら目を落としているようなときには、どんな指示であれ、それを読み解くような時間はないよ」
ロズベルグは、自分のように頭を使うドライバーにとってはこのルール変更が有利に働くだろうと考えている。
ロズベルグは、「ただ言われた通りに変更を行っていたようなドライバー」とは違い、自分は常にエンジニアからの指導に関して、その理由を理解しようと努めていたと主張した。