メルセデスF1チームを率いるトト・ヴォルフが、現在エンジンの信頼性問題に苦しんでいるのは前エンジン責任者のアンディ・コーウェルの離脱が関係しているのではないかという推測を否定した。
2014年に導入されたハイブリッド方式F1エンジンの開発責任者として活躍してきたイギリス出身のコーウェルは2020年6月いっぱいでその職を降り、現在は同じイギリス出身のハイウェル・トーマスがその後任を務めている。
だが、コーウェルが手がけた2020年までのメルセデスF1エンジンはパフォーマンスだけでなく信頼性でも非常に高いレベルにあったものの、今年のメルセデスエンジンは信頼性の問題を抱えており、バルテリ・ボッタスはすでに規定数エンジンコンポーネント投入によりここまでに3回もグリッド降格ペナルティを受けてしまっている。
メルセデスF1チームCEO兼代表のヴォルフは、信頼性の問題が存在していることを認めつつ、その原因はまだ「完全には理解できていない」としている。
こうしたことから、コーウェル離脱がこの問題に大きく関係しているのではないかと推測しているF1関係者やメディアも多いようだ。
だが、ヴォルフは、この問題とコーウェル離脱との間に何かしらの関係があるとは思っていないとドイツの『Speed Week(スピードウィーク)』に次のように語った。
「この会社の強みの一つはスタッフの層の厚さなんだ」
「もちろん、アンディは我々の成功に多大な貢献をしてきた比類なき人物だ。だが、彼の後継者であるハイウェル・トーマスもそれは同じだよ」
「私は現在の体制に100パーセントの自信を持っているし、トップにいた人材が会社から去ったことで困難が生じたとは断定することはできないと思っている」
今季のF1エンジンルールでは、年間に使用できる主要エンジンコンポーネントは3基までとなっている。だが、先ほども書いたようにボッタスはすでに6基目のICE(内燃機関)を投入している。
さらに、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)と今季のタイトル争いをしているルイス・ハミルトンもすでに4基目のICEを使用しているが、噂では残りの5レースのどこかでハミルトンもさらに新たなエンジンと交換する必要が生じるのではないかとも言われている。
こうした状況にあるにもかかわらず、ヴォルフは年間のエンジン数を制限し、それを超えた場合にはドライバーにグリッドペナルティを科すという現在のルールを変更する必要はないと考えているようだ。
しかし、ライバルであるレッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは、このルールは再考が必要だと主張している。
「私は、このシーズンごとにエンジンの数が制限されていることにずっと不満を抱いている」
「コストの増加を防ぐためにこのルールが導入されたことは理解している。しかし、結局のところ1シーズンに最低でも4基は使うことになるんだ」
そう述べたホーナーは次のように付け加えた。
「そして、単にコストが増えるだけでなく、ドライバーにペナルティが科されることになるんだ」
しかし、ヴォルフはホーナーとは異なる見解を持っている。
「数レースしか持たないパワーユニット(エンジン)を造るという状況は避ける必要がある。もしグリッド降格ペナルティをやめてしまうと、コンストラクターズポイントの損失には目をつぶって、単純にドライバーズタイトルを争うマシンに多くのエンジンを搭載することになりかねないよ」。
しかし、そう語ったヴォルフも、スペインのスポーツ紙『Marca(マルカ)』に対し、このルールの代替案を「検討する価値はある」と認め、次のように付け加えている。
「私も、ドライバーがあのような形で最後尾に下げられるのは、新しいファンにとっては混乱を招くものだという意見には賛成だ。しかし、私には解決策はないよ」