F1公式タイヤサプライヤーであるピレリのポール・ヘンベリーが、いまだ新型コロナウイルスが終息する兆しが見えない中で7月初旬にレースを行うのは“無謀”だと非難した。
今季のF1はすでに開幕戦から第10戦フランスGPまでの延期もしくは中止が確定している。
だが、元々第11戦としてカレンダーに載っていたオーストリアGP(7月5日決勝)は予定通りに開催する方向で現在調整が進められており、舞台となるレッドブルリンクのオーナーであるレッドブルはF1やオーストリア政府の後押しを受けながら翌週の7月12日にも2週連続で「無観客レース」を開催する計画の実現を目指している。
F1最高責任者であるチェイス・キャリーは今年15レースから18レースの開催実現を目標に掲げており、オーストリアに続いてイギリスのシルバーストン・サーキットでも同じような形でのレース開催が目指されているようだ。
だが、2017年からF1担当を外れてピレリの南米地区統括責任者の職にあるイギリス出身のヘンベリーは、そうした計画はあまりにも「無謀」だと考えている。
「不明なことが非常にたくさんあるのに、どうしてこういう発表をすることができるのだろう?」
そう語ったヘンベリーは次のように続けた。
「ヨーロッパは封鎖状態にある。不明点が多いことを考えれば7月にレースをするという考えは向こう見ずでしかないよ」
「全ては金と生き残るためだが、それはどんなビジネスでも同じだ。F1には免疫があるというわけではない」
F1ビジネス記者として知られるクリスチャン・シルトもF1の今後については悲観的だ。シルトはたとえ無観客でレースを開催したとしてもF1の利益は「崩壊」する可能性が高いと見ている。
現在F1が抱えているもうひとつの大きな問題は、新型コロナウイルス危機により全てが立ち往生状態となっている今、10チーム全てが2021年から適用される新コンコルド協定にまだ調印していない状況が続いていることだ。
「今後自動車メーカーがコスト削減のために撤退するリスクもある」
ヘンベリーはそう語ると次のように付け加えた。
「彼らのボスが3億ドル(約320億円)を節約しようとするとき、彼らは『我々はF1から撤退する』と言う可能性もあるし、そうなればF1との契約は失効することになる」
ヘンベリーだけでなく、元F1ドライバーのティモ・グロックも7月にF1レースを開催する計画には反対だとしている。グロックは新型コロナウイルス問題が解決していない中で無理矢理レースを行うことには「道義的」に問題があると考えているためだ。
「DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)あるいはF1がすぐにレースを始めるといったことが、道徳的に正当化できるのかどうかを判断するのは私ではない」
かつてトヨタやヴァージンのドライバーを務めていたドイツ出身のグロックはそう述べると、『Speed Week(スピードウィーク)』に次のように付け加えた。
「視聴者は喜ぶだろう。だが、どうして自分たちが(コロナウイルスの)検査を受けることができないのかという疑問を抱く大勢の人たちもいるだろう。例えばブンデスリーガ(ドイツのサッカーリーグ)では数日おきに検査が行われているのにね」