世界最高峰のモータースポーツとして認識されているF1だが、たいした実績はないものの資金力によってシートを獲得する「ペイドライバー」の存在に対して批判的意見があったのも事実だ。
最近でもそういう批判を受けるドライバーや、そうしたドライバーを登用するチームに対して批判的な目が向けられることも少なくない。
例えば、まだ正式発表はないものの、ウィリアムズでは2018年に昨年F1デビューを飾ったランス・ストロールのチームメートとしてロシア人ルーキーのセルゲイ・シロトキンを登用することになるだろうと言われている。
当時18歳のストロールが昨年ウィリアムズのシートを獲得できたのは大富豪の父親が持ち込んだ資金によるものであることは事実であり、シロトキンの場合も母国ロシアの有力スポンサーがかなりの額をチームにもたらすものと考えられている。
ウィリアムズのようなプライベートチームにとって現在のF1は金がかかりすぎるものとなっており、チームを運営していくためにはドライバーが持ち込む資金をあてにしなくてはならないという側面があるのは事実だろう。
■ライセンス発給システムを見直したFIA
そんな中、F1統括団体であるFIA(国際自動車連盟)の会長を務めるジャン・トッドの息子で、F1ドライバーのマネジャーとして活躍するニコラ・トッドは、FIAはそうした状況を打開しようと動いていると次のように語った。
「財政面での支援が助けになるのは確かだ。だが、FIAによって設けられたスーパーライセンス(F1に出走するための免許)システムによって、F1で走るにふさわしいレベルにないドライバーたちが昇格できなくなっている」
「大金をつぎ込むこともできる。だが、必要な(ライセンス)ポイントを得るためにはいいパフォーマンスを発揮しなくてはならないんだ」
「F1へ登り詰めるためには成績が重要であり続けなくてはならないからね」
トッドが言及したスーパーライセンスポイント制度とは、F1直下の下位カテゴリーであるF2からカートまで多くのカテゴリーにおいて年間順位ごとに得られるポイントが定められており、過去3年以内の累積ポイントが40ポイントに到達しないとF1で走るためのスーパーライセンスが与えられないという仕組みになっているものだ。
これは2015年に当時まだ普通の自動車免許も取得できない17歳のマックス・フェルスタッペン(現レッドブル)がトロロッソからF1デビューした際に、あまりにも若く、実績もないドライバーをF1に昇格されるのはいかがなものかという意見が多く出されたことで、このシステムが整えられたという経緯がある。
このシステムが整備されたことにより、今後はいくら資金があっても、ライセンスを発給してもらえるだけの実績が伴わなければF1ドライバーにはなれない仕組みとなっている。
■有望な若手に道が整えられつつあるとザウバーのボス
ともあれ、トッドがマネジャーを務めるドライバーのひとりであるシャルル・ルクレールも2017年にF2チャンピオンに輝いた実績によりF1昇格に十分なポイントを獲得。フェラーリの若手育成プログラムメンバーでもあるルクレールは2018年にフェラーリからエンジン供給を受けるザウバーからF1デビューを果たすことが決まっている。
昨年の7月にザウバーのチーム代表に就任したフレデリック・バスールは、こうしたシステムがうまく回り始めたこともあって、近年のF1には驚くほど有能な若手が増えていると数名のドライバーの名前をあげながら次のように語った。
「私が見るところ、過去2、3年にわたって将来有望なドライバーのほとんどがF1にやってきていると思う」
「オコン、ガスリー、バンドーン、ルクレール、それにノリスやラッセルも恐らく同じようにF1デビューを飾ることになるだろう」
参考のためにバスールが言及したドライバーたちについて以下に簡単に補足しておこう。
エステバン・オコン(2015年GP3チャンピオン/現フォース・インディア)
ピエール・ガスリー(2016年GP2チャンピオン/2017年にトロロッソでF1デビュー)
ストフェル・バンドーン(2015年GP2チャンピオン/現マクラーレン)
シャルル・ルクレール(2017年F2チャンピオン/2018年にザウバーでF1デビュー決定)
ランド・ノリス(2017年F3チャンピオン/2018年マクラーレンの控えドライバー)
ジョージ・ラッセル(2017年GP3チャンピオン/メルセデス育成ドライバー)
バスールは次のように続けた。
「以前は常にこういうことが起きていたわけじゃない」
「現在ではキャリアを積み上げるためのかなりシンプルなメカニズムができている。競争力があり、ジュニアレベルで成功を収めさえすれば、大規模チームの若手育成プログラムに加わるチャンスを得ることができるんだ」
「以前はこうしたプランには大きなギャップがあったし、多くの若手ドライバーがそのわなに落ちていた。彼らには行ける場所はなかったからね」
■ストロールをペイドライバーと決めつけるのは間違い
2015年からザウバーのドライバーを務めているマーカス・エリクソンも一般的には「ペイドライバー」とのレッテルを貼られたドライバーだ。しかし、バスールはエリクソンやウィリアムズのストロールは資金力だけでF1シートを得たわけではないと主張している。
「ストロールあるいはエリクソンはそれだけでF1に昇格できたわけじゃないよ。彼らはジュニアシリーズで成功を収めているんだ」
そう語ったバスールは、次のように付け加えた。
「恐らく、資金が用意できなければ彼らがF1に来るチャンスはなかったかもしれない。だが、彼らはF1に来るために必要な結果を残しているよ」
ちなみに、ストロールの場合は大富豪の父親から大きな援助を受けたことでスムーズにF1に昇格できたのは事実だが、2014年にはイタリアF4チャンピオン、2015年にヨーロッパF3で5位、2016年に同シリーズでチャンピオンに輝いた実績を持っており、現在のFIAスーパーライセンス発給条件をちゃんと満たしているのも確かだ。