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放送作家・小山薫堂「“ミチ”に価値が生まれる」F1番組にも関わっていた小山氏が考える未来のクルマとモータースポーツ

2017年10月18日(水)5:35 am

【特集】「未来のクルマとモータースポーツ」では、モータースポーツも自動車もかつてないほどの大きな変化を迎えている今、各界で活躍するプロフェッショナルがどのように考えているのか、「未来のクルマとモータースポーツ」について語ってもらう。


自動運転システムの昨今における進化ぶりは“交通事故を減らす”という命題に対するメーカー側の強い思いを反映させたものだ。だがハードウェアだけではなくドライバー側もともにその命題への意識を高めていかなければ意味はなく、システムが浸透するか否かはそこがカギを握ることになる。

交通事故のない未来のクルマ社会に向け、その「ヒト」に対しアプローチしてきた人物のひとりが2007年に「思いやりを増やす。交通事故を減らす」というスローガンのもと活動をはじめた「TOKYO SMART DRIVER」の発起人であり、現在その進化型である「JAPAN SMART DRIVER」を主宰する放送作家の小山薫堂氏だ。小山氏は映画「おくりびと」の脚本や、くまモン生みの親としても知られているが、かつてF1番組にも携わっていたという。そんな小山氏に、未来のクルマ社会について語ってもらった。

――小山さんはモータースポーツについて、どんなかたちの未来を想像していますか。

「20代でF1の番組に携わったのがきっかけで、その頃から今も時々サーキットは行っています。最近ではル・マンクラシックや、F1のシンガポールGPも見に行きました。モータースポーツを見て人が興奮したり感動したりするのは、本能的なものだと思います。人間が創り上げたものを人が運転して信じられないスピードで走る――F1を初めて見たときには、これぞ究極のスポーツだと思ったものです。

そんな、人を惹きつける力がモータースポーツにはあると思うので、メーカーの技術革新や方向性の変化によってかたちが変わっていくとしても、多くの人がそこに集まってくることに変わりはないと思います。そのうち、改めて今アナログレコードが見直されているように、最新技術を使わないシンプルなレースが復活したりするのも楽しいでしょうね」。

――未来のクルマといえば、2年に一度開催される第45回東京モーターショー(2017年10月27日(金)〜11月5日(日)、東京ビッグサイト)でその流れを具体的にイメージできると思いますが、こちらはどんな印象ですか。

「2年前にモーターショーを盛り上げようという番組を作ったこともあるし何度から足を運んでいますが、会場が広く人も多くて疲れます(笑)。その疲れを癒すスペースがあるといいですよね。クルマ業界のブースとは別に、例えばディズニーランドがコラボしてクルマに関連する限定のアトラクションを設置するだとか。

そんなワクワク感も加われば普段行かない人が行ってクルマの未来に興味を持つことになるし、クルマにかかわる人たちの思いを理解するという効果にも繋がると思います。また夜も人が入れるようにすれば、違った層が来場することになる。“真夜中のモーターショー”なんて、面白そうですね」。

――先日発表された今年の東京モーターショーの概要を見ると、参加者の質問をもとに創造した“未来”をドーム内に映し出し体感できる参加型プログラムや未来の東京を迷路に見立ててゲーム感覚で解き明かしていくVR体験ブースなどが設置されるようです。このあたりは今までにない層を呼びこめそうですし、未来のクルマ社会に多くの人が興味を持ってもらえそうですね。ところで小山さんは、ここ数年のクルマ業界の改革を目の当たりにして、何か意識は変わりましたか。

「1992年に『5年後』というTV番組を作ったのですが、それは5年後を予測するという番組で、そのときF1が将来電気自動車化されるという話題があり、僕の中で電気自動車という未来のかたちがひとつ見えていました。ところがこの2~3年、自動運転というものがかなりリアルになり、予想外のものが出てきた。

2007年に発足したこの活動(現「JAPAN SMART DRIVER」)は交通安全のための事故削減が目的で、ポイントは“ミチ”にいかに感情移入できるかということ。それまでミチは単なるインフラでしかなく、あって当たり前のもの。そこに愛着があれば、それが安全運転に繋がるだろうと考えていました。でも自動運転が実現すればミチはもっと居住空間に近いものになる。家でいえば廊下がリビングの役割も果たすというような。自動運転で通るときの、居住空間としてのミチを考えたとき、どんな可能性が出てくるのだろうかと徐々に考えるようになりました」。


「NPO 日本スマートドライバー機構」設立を発表する小山薫堂氏。

――いつ頃からそのような“ミチ”に対する意識が芽生えたのですか。

「クルマに最初に触れた20代の頃は普段はスポーツカーに乗って、カートも所有していてサーキットで走るのが趣味と、どちらかかといえばモータースポーツの視点が強かった。クルマのスリリングな部分に魅力を感じていたんですね。

それが30代になると、スポーツというよりはドライブ。さらに40代になってからは、余裕をもって走ることの格好良さ、ドライブすることによる精神的な安らぎを求めるようになってきました。それまでは“速く走りたい、早く目的地に着きたい”というのが一番の価値だったのが、ゆっくり走ることで環境にも道路にも負荷をかけていない運転をしている自分の精神状態が心地良いというか、いわばヨガみたいなもの。だから今も速いクルマを持っていますが超・安全運転です(笑)。そうなると自然にミチにも感情移入することになります」。

――自動運転によって安全が担保されるようになると活動の方向性も変わっていきますか。

「ミチにもっと価値が出てくるとは思います。我々のキャンペーンの根幹にあるのは、人は思いとか心の持ち様によって事故を起こさないということだけでなく、その先にある価値をも創造していこうというもの。自動運転の世の中になっても、自分以外の他者を慮(おもんぱか)ることをどう演出していくかというSMART DRIVERの使命に変わりはありません。

ただ単に本を読んでいたらそのうち目的地に着くだとか、そういうものではなくて、人やモノとこれまでとは違うかたちですれ違うことによって新しい価値が作れるかもしれない。例えば移動しながらショッピングができるなど。それは新しいビジネスモデルをつくることにも繋がるし、そうなればミチが今はない経済効果を生むことになります」。


5月5日は「たのしくドライブする日」として一般財団法人日本記念日協会に認定され、銀座柳まつりではJAPAN SMART DRIVER賛同市民総勢100名による交通安全パレードが行われた。

――発足当初とクルマ社会の未来のかたちが変わってきたことで「JAPAN SMART DRIVER」で新たにやりたいことが何か出てきましたか。

「今具体的に考えていることとして、キャンピングカーを使って地域創生に結びつけるというのがあります。“民泊”に対し“民駐”とでも言ったら良いのでしょうか、駐車場だけを貸すアイデア。人を呼ぶために道路を整備する傾向がありますが、バイパスで大きな街をつなげばその分スルーされる場所が出てきます。そこでクルマがホテルのような役割をすれば宿がないところにも行けるし、普通のドライブとは違った体験ができて面白いのでは、と。

また、今後はミチそのものに価値を持たせるアイデアもどんどん考えていきたいと思います。それはビジネスになって誰かにとって利になるようなしくみ――具体的には例えば、ファッションブランドとのコラボでミチの一部で匂いが変化するとか照明がおしゃれになるとか、家電メーカーとのコラボでプロジェクトマップを使ってミチの一部で全く違うところを走っている気分が味わえるとか。自動運転の実現によってアイデアはもっと膨らんでいくと思います」。

――最後に、小山さんにとってクルマ社会における理想の未来とは何ですか。

「これまで話をしてきた通り、理想は交通事故のない世の中で、その先でミチが新たな価値を生むこと。またそれとは別に、理想というか期待していることもあります。自動運転は確かに究極だと思いますがAI(人工知能)もどんどん進化するわけで、クルマは自動運転からさらに先に行くことのできるポテンシャルを持っていると思います。人工知能によってクルマが乗ったときに悩みを聞いてくれるとか、高ぶっている気持ちを落ち着かせてくれるとか、今は考えられない価値をまだまだ生んでくれる可能性は十分あると思います」。

取材・写真:前田利幸

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