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中野信治「未来を受け入れて、変化を楽しみたい」〜レーシングドライバーが見るクルマの未来とは〜/【第1回】未来のクルマとモータースポーツ

2017年09月08日(金)16:01 pm

【特集】「未来のクルマとモータースポーツ」では、モータースポーツも自動車もかつてないほどの大きな変化を迎えている今、各界で活躍するプロフェッショナルがどのように考えているのか、「未来のクルマとモータースポーツ」について語ってもらう。


スピード、ドライバビリティ、耐久性など、かつて自動車メーカーはどちらかというとユーザーメリット部分に重きを置き開発を行い、飛躍的な進化を見せた。その進化に自動車レースが大きく貢献したことは間違いのない事実だ。

だが今、各メーカーの開発は“CO2(二酸化炭素)を出さない”“事故が起きない”といった、どちらかといえば社会的メリットといる方向にシフトしているのが現状だ。環境にも良く事故がないクルマ社会は誰もが望むところだが、その一方でクルマを運転することの楽しさが薄れていく――そんな過渡期にある今、レースの世界で生きてきた者は何を思うのか。日本人で唯一世界三大レース(F1モナコGP、インディ500、ル・マン24時間レース)すべてに出場を果たした、世界を知るレーシングドライバー、中野信治が語ってくれた。

■モータースポーツにはクルマの未来を映す使命がある

――長い歴史を築いてきたレースの世界もEV(電気自動車)車両を使用するフォーミュラEに注力するメーカーが増えるなど改革期を迎えていますが。

中野:「自分を含め確かに、今までクルマが正常進化する中で生活してきた者にとってはそれを常識と捉えているから大きな変化に違和感がある。でも誰もが気づいている通り、これからはEVやFCV(燃料電池車)が常識になり、自動運転もいずれスタンダードになって、20年後はきっと我々が今行っていることの方が“何”ってことになる。

クルマを操ることやエンジンサウンドをずっと楽しんでいきたいという思いも確かにありますが、人の意識って割と簡単に変化するし、正直そこにこだわりはないですね。それが地球のため、子孫のためであるのならば受け入れていこうと思っています。そこにクルマの未来があることは間違いなく、歴史にこだわっている周りの人たちも引っ張り過ぎず、早く受け入れるべきだと思います」

――中野さんが出場してきたル・マン24時間でもここ数年、大きな変革が起こっていますね。

中野:「2005年からずっとル・マン24時間に出ていますが、アウディがディーゼルエンジンを使ってきたあたりからですね。ディーゼルエンジンは当時ヨーロッパで最も推奨されていたエコエンジンでしたが、レーシングエンジンとしてはトルクはあるが上の方は全然回らない、使えないエンジンだと考えていました。

その後LMP1クラスにハイブリッドが導入されアウディはディーゼルハイブリッドになったわけですが、それで勝って人の意識は変わった。実際はレギュレーション操作もあるのですが、そこで技術が確実に進化したのは重要なことだったと思います。だからモータースポーツが今のかたちのままで残る必要はない。今後環境にも良くて楽しさも充分ある、全く新しいものが出てくるかもしれないですし」

――従来のレースファンや関係者は今後、フォーミュラEに順応していけるのでしょうか。

中野:「F1に比べれば迫力はないし、従来のレースファンは当然フォーミュラEに物足りなさを感じているでしょう。変化を嫌う気持ちも分かります。でも、そこに未来のかたちがあるのなら受け入れなければならない。難しい選択かもしれませんが、モータースポーツにクルマの未来を映す使命があるとすれば、それに逆行してはならないのでは。今までさんざんそういった方たちにお世話になっておいて冷たいと思われるかもしれませんが、だからこそ生き残ってほしいんです。手遅れにならないうちに意識を変えるべきですね」

■今こそが、モータースポーツをメジャー化させるチャンス

――ドライバーとして、電気自動車についてはどういう印象を持っていますか。

中野:「電気自動車のフォーミュラカーには乗ったことがありませんが、テスラには早い段階から乗っていて結構面白いと感じていました。従来のクルマとは全く違ったトルクの出方が気持ちよかったですね。独特なサウンドも全然嫌な感じはしませんでした。レース関係者やファンの中には音にこだわっている人が多いようですが、全体的に見たら受け入れられる人の方が多いのかもしれない。つまりある意味、日本においては特に、新たなファンを増やしモータースポーツをメジャー化できるチャンスだともいるわけです。

延いてはメーカーの取り組み方次第で電気自動車の普及にもつながる可能性もある。インフラ面が危惧されていますが、国やメーカーが本気で取り組めば問題はきっと解決する。僕はいずれ電気自動車の時代が来ると思っています」

――最高峰にあるF1も今後が懸念されていますが。

中野:「F1はモータースポーツの頂点として速さを追求しなければならないし、すぐには変えられないかもしれませんが、いずれはその方向に行かざるを得ないでしょう。ビッグなビジネスだけにタイミングは難しそうですが、そこは頭が良い人が集まっている組織なので間違えないでしょう。とにかく、モータースポーツは未来のクルマ社会を啓蒙する存在であり続けてほしいですね」

■自動運転の新たな価値は大きい。レースはどうなる?

――クルマが将来、完全自動運転になるといわれていますが。

中野:「さすがにドライバーとしては、それは寂しいですね。でも安全面を筆頭に、これまでなかった多くのメリットをもたらすのも確か。事故がなくなるだけでなく渋滞がなくなるというのは誰にとってもメリットだし、移動中ずっと運転に神経を使っていた今までと違い、目的地につくまでリラックスして、充実した時間を過ごすことができるという新たな価値は大きいと思います。自動運転は実現間近ということで、今回の東京モーターショー(2017年10月27日(金)〜11月5日(日)、東京ビッグサイト)でどんな進化ぶりが見られるのか楽しみです」

――自動運転車が普及すると、レースの方はどうなるのでしょうか。

中野:「実際、セーフティカーの自動運転については近い将来導入されることになっています。その先で、レースそのものは例えばVR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)を使ったゲームみたいなものに変化していくのかもしれませんが、周りはそこからスタートした人たちなのだから受け入れなければならないし、スポーツと呼ばれるどうかわかりませんが残ってほしいという気持ちもあります。競争が好きな人はいつの時代もいると思うので」

「自動運転対ドライバーの勝負というのも面白そうですね。将棋などと違って勝負にならないかもしれませんが。でもそれで、自動運転の性能の高さが証明される。とにかく、変化を拒んではならないと思います。僕も寂しいと思いながらも受け入れようとしているわけですから」

――将来的にクルマ社会はどう変化するのでしょうか。どんな未来が理想ですか。

中野:「現時点で具体的なイメージはありませんが、大きく変わるのは確かでしょうね。理想はその変化が受け入れることのできるもので、かつ楽しいものであること。今後10年、20年と、その過程を見ながらずっとそこに関わっていきたいと思っています」

取材・写真:前田利幸

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