F1により多くのオーバーテイク(追い抜き)をもたらすには、「アクティブサスペンション」を導入するのが賢いやり方かもしれない。
そう語ったのは、今年F1のモータースポーツ担当マネジングディレクターに就任したロス・ブラウンだ。
■オーバーテイク減少が懸念されるF1
大きなレギュレーション変更が行われ、これまでよりも25%ワイド化された高グリップのタイヤと、よりダウンフォースが強化されたシャシーが導入されたことで、今年のF1カーのコーナリングスピードは昨年までとは比べ物にならないほど改善されている。
だがその反面、空気抵抗が大きくなったことによりストレートでの最高速度は昨年よりも少し遅くなっている。このため、特に抜きどころの少ないメルボルンのアルバート・パーク・サーキットで行われた開幕戦オーストラリアGPでは、昨年よりもオーバーテイクの数が減ったというデータが示されている。
■オーバーテイクが簡単過ぎるのもNG
だが、第2戦中国GPではいくつか緊迫したオーバーテイクシーンが見られたのも事実だ。
ブラウンは、中国GPで見られたようなオーバーテイクがある意味でF1にとって理想的なものだと次のように語った。
「目指すべきは、基本的にオーバーテイクは可能であるものの、それが難しいものであることは変えないことだ」
ブラウンが、現在F1がオーバーテイク支援システムとして導入しているDRS(空気抵抗低減システム/可変リアウイング)に関してはあまりにも人為的だとして批判的な見方をしていることはよく知られている。
だが、そのブラウンも今後またオーストラリアGPのようにオーバーテイクがあまり見られないレースも出てくるだろうと考えており、それはF1の魅力を維持していくためには問題だとの認識を持っている。
■今年オーバーテイクが難しい理由は?
ちなみに、今年のF1カーでオーバーテイクが難しくなった最大の理由は、空力特性の変化によりF1カーの後方に大きな乱気流が発生するようになったためだと言われている。後方から前のクルマを追い抜こうとしても、前のクルマが発生する乱気流によってクルマの挙動が不安定となり、それ以上接近して横に並ぶことが難しくなるためだ。
しかし、現在のシャシーレギュレーションは今後2020年までは現行規格のまま継続されることになっており、F1カーが発生する乱気流を根本的に改善することはかなり困難だというのが実情だ。
■短期的に効果が期待できる対応策はアクティブサスペンション
ブラウンは、ドイツの『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』に次のように続けた。
「長期的には、ウイングが大きなタービュランス(乱気流)を発生させないようにする必要がある。だが、短期的にはほかのアイデアが必要となる」
ブラウンは、その方策のひとつとして1993年を最後に禁止された「アクティブサスペンション」を復活させることも検討する価値があるだろうと次のように付け加えた。
「ほかのクルマの後ろを走行するときの問題は、バランスが変化してしまうことだ。アクティブサスペンションならそれを防ぐことができるだろう」
■アクティブサスペンションとは?
アクティブサスペンションとは、路面状態や空気抵抗の変化、車速などに応じてサスペンションを動的に稼働させ、車高を制御するなどして走行に最適な状況を生み出すためのシステムだ。
F1では1980年代から実用化に向けた挑戦が開始され、その熟成に成功したウィリアムズが1992年に圧倒的な強さでドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルを獲得。翌1993年にはほとんどのチームがこのコンセプトを導入したという経緯がある。
このアクティブサスペンションは前述の通り1993年を最後に禁止となった。だが、近年ではそれと似た効果を発生する「FRIC(フロント・アンド・リア・インターコネクテッド)」と呼ばれるサスペンションも開発されたが、こちらも2014年に禁止されている。