F1有力チームで組織されている意思決定機関であるストラテジー・グループが、24日(火)にパリでF1最高責任者のバーニー・エクレストンと、統括団体であるFIA(国際自動車連盟)のジャン・トッド会長と会議を行うことになっている。
■争点は2017年からの“クライアントエンジン問題”
強力な力を持つ自動車メーカー系チームによってコントロールされている現在のF1に一石を投じるため、エクレストンとトッドは、2017年から独立系エンジンメーカーを参入させ、現行V6パワーユニットと並行して2.5リッター自然吸気エンジンを走らせるという、二層構造的なエンジンルールの導入を目指している。
もちろん、自動車メーカー系チームが構成メンバーの大半を占めるストラテジー・グループでは、今回FIAが進めようとしている計画に関して反対の立場をとっていることは間違いない。今回の会議では、この件が大きな争点となるようだ。
■2017年からのエンジン供給に3社が名乗り
23日(月)が、2017年から参入を希望する独立系エンジンメーカーによる入札参加申込期限となっていたが、うわさされていたコスワースは申請を見送り、イルモアとAER、そしてメカクロームの3社が申請を行ったことが明らかとなっている。
現在のV6パワーユニットは、ERS(エネルギー回生システム)を備えた最新技術の粋が集められたもので、そのエンジン供給価格は1年につき3,000万ドル(約37億円)程度だと考えられている。
だが、FIAとエクレストンが提唱している独立系エンジンメーカーによる“クライアントエンジン”の場合は、高くても700万ユーロ(約9億2,000万円)程度に価格が抑えられると言われている。
ドイツの『Bild(ビルト)』によれば、フォース・インディア、ザウバー、マノー・マルシャといった小規模チームたちは、エクレストンに対して、正式には来年支払われることになる2015年のF1賞金の前払いを求めているという。
財政難に苦しむそうした小規模なプライベートF1チームにとっては、価格面だけを見れば、この“クライアントエンジン計画”は魅力的な話となるに違いない。
■自然吸気エンジンなら音も再び魅力的に?
だが、この計画に興味を示しているのは小規模チームだけではない。2010年から2013年までルノーと組んで4年連続F1チャンピオンチームとなったレッドブルもこの計画に大いに期待を寄せている。ルノーとの関係が悪化したレッドブルだが、メルセデス、フェラーリ、ホンダのいずれからもエンジン供給を断られており、大手自動車メーカーではない独立系エンジンメーカーによるシンプルな自然吸気エンジンに大きな魅力を感じているためだ。
レッドブルのジュニアチームであるトロロッソのチーム代表フランツ・トストも、この計画には前向きなようだ。トストは、2.5リッター自然吸気エンジンであれば、コストが下がることによって、チームもほかの開発へ資金を投入することができるという自由が生まれるだろうと語り、さらにもうひとつメリットもあるだろうと次のように続けた。
「ほとんどのファンは、もっといい音がするもうひとつのエンジンを歓迎すると思うよ」
■現行サプライヤーは代案を提出か?
しかし、『Bild(ビルト)』は、エクレストンとトッドが進めようとしているこの計画は、実際には政治的な主導権を握るためのものに過ぎないようだと考えている。
『Bild(ビルト)』は、「現在のエンジンサプライヤー4社は100%合意し、新たな低コストエンジン導入に対して反論を行い、拒否権を発動しようとするだろう」と書いている。
うわさによれば、メルセデス、フェラーリ、ルノー、そしてホンダは、24日(火)の会議において対抗策を提示するようだと言われている。それは、トッドが最近エンジンに1,200万ユーロ(約15億7,000万円)という上限価格を設けるという提案を行っていたが、この金額を1,600万ユーロ(約20億9,000万円)に引き上げるという案ではないかとみられているようだ。
■FIA、現行ルールの延長も提案か
だが、『Sport Bild(シュポルト・ビルト)』は、FIA会長のトッドはもうひとつニンジンを持っているのではないかと書いている。それは、現在のルールでは現行V6パワーユニットの使用が確定しているのは2020年までとなっているが、これを2025年まで延長するという提案を行うというものだ。
トッドも、これに関して「安定したルールが継続されることが重要だ。そうすればほかのメーカーもF1に参入しやすくなるからね」と語り、現行エンジンルールの延長をほのめかしている。
■圧力には屈しないとメルセデス
F1関係者の中には、2種類のF1エンジンを並行使用するというルールがうまく機能しないのは明らかであり、今回FIAとエクレストンがこうした計画を打ち出したのは、自動車メーカーに圧力をかけ、うまくコントロールするための交渉材料にしようとしているに過ぎないと考える者も少なくない。
現在、最強のパワーユニットを持つメルセデスのトト・ヴォルフ(モータースポーツ責任者)は、『Bild(ビルト)』に次のように主張した。
「もちろん、交渉することはできる。だが、我々は脅迫には屈しないよ」