マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソが、2月にバルセロナで起こったクラッシュは、ステアリングが「ロックしてしまった」ことによるものだったと語った。
アロンソのクラッシュに関してはさまざまな矛盾する情報や憶測が飛び交うこととなり、F1の歴史においてもあまり例をみない不可解な事故だととらえられていた。だが、今回のニュースは、さらなる憶測を誘発するものとなるかもしれない。
■事故原因は間違いなくステアリングだとアロンソ
マクラーレンでは、アロンソが「ステアリングが重い」と感じていたと語ったことは認めつつも、そのクラッシュはクルマに何か異常があったために起きたものではないとほんの数日前に主張したばかりだ。
だが、アロンソのステアリングが実際に「ロックされた」状態だったに違いないとの仮説を報じたメディアもあった。
今週末のF1マレーシアGP(29日決勝)で復帰することが決まったアロンソが26日(木)に行った発言は、そうしたうわさが真実であったことを示唆するものだ。
統括団体であるFIA(国際自動車連盟)主催のドライバー記者会見に姿を見せたアロンソは、大勢の記者たちに向かって次のように語った。
「ステアリングに問題があったのは間違いない。右に切った状態でロックしていたんだ」
■伝えられていたような意識喪失や記憶喪失もなかった
さらに、アロンソは、これまで報じられていたこととは違い、記憶を失ったこともなければ、事故の前も後も意識があったと主張した。
「病院にいたときのことに関して思い出せないことはある」と語ったアロンソは、自分が意識を失ったのはヘリコプターで病院へ搬送するために麻酔薬を投与されたときだけだったと主張した。
「すべて覚えているよ。完ぺきに意識があったからね」
アロンソはそう語ると、次のように付け加えた。
「1995年に目覚めたりはしなかったし、イタリア語で話したりもしなかった。報じられているようなことは何もなかったよ」
マクラーレン最高権威のロン・デニスは、予期せぬ突風によってアロンソがコースをはずれてしまったのだろうと語っていた。だが、これに関してもアロンソは「あのときのスピードなら、ハリケーンがきたって吹き飛ばされるようなことはないよ」とし、「いや、違う。絶対に違うよ」と強調した。
■混乱が起きたのはチームがストレスを感じていたため?
アロンソが口を開くたびに、そのコメントを聞いていた記者たちはとまどいの表情を浮かべることとなった。何人かの記者は、そうしたアロンソのコメントは、例の事故に関する複雑な憶測を単に増幅させるだけではないかとの疑問を口にしたほどだ。
これに対し、「最初にチームが行った記者会見やその後のコメントは推測によるものだったんだろうと思う」と答えたアロンソは、おそらく自分が病院の集中治療室に入院させられたことがチームにとって「強いストレス」となり、「急いで」メディアに対して説明しなくてはならないという状況に追いこんでしまったのだろうと説明。
「それによってちょっとした混乱が生じてしまったんじゃないかな」とアロンソは付け加えた。
また、アロンソは自分自身が何か身体的な異常を抱えていたのではないかとのうわさも否定し、自分は「完ぺきに健康さ」と主張。これまで多くの検査を受けたことをネタにし、自分は「歴史上最も多く健康診断を受けたドライバー」になったとの冗談も語った。
■今後に向けて不安はないとアロンソ
だが、もしアロンソが主張するステアリングのロックが本当にあの事故の原因だったとするならば、マクラーレンでは何の技術的異常も発見されなかったと言っているだけに、再びマクラーレン・ホンダMP4-30に乗ることに対してアロンソが神経質になってもおかしくないだろう。
そうした不安があるのではないかと尋ねられたアロンソは、「そんなことはないよ」と答え、次のように続けた。
「クルマに問題があったことははっきりしているけれど、それを示すデータはなかったというだけだ。僕はそれも完全に理解できるし、チームの見解を尊重しているよ」
「疑いなどまったく持っていないし、心配もしていない」
アロンソによれば、バルセロナでのテストでは自分の好みに合わせた「ステアリングラック」を使っていたのだという。「ラック」とは歯車と組み合わされる歯竿(はざお)のことだ。だが、今後はチームメートのジェンソン・バトンやケビン・マグヌッセンが使っているのと同じ標準的なものに戻すことにしたという。
さらに、アロンソは今後同様の状況が起こらないようにするために、クルマに新たなセンサーが組み込まれたことも認めている。
「僕はチームに全幅の信頼を置いているし、彼らはこの1か月の間に少しでも疑いのあるパーツはすべて交換してくれた」
そう語ったアロンソは、ほほ笑みながら次のように付け加えた。
「今では最も安全なクルマになったと思っているよ」