モータースポーツでもっとも栄誉あるタイトルを巡って、今週末、チーム内バトルを展開しているメルセデスAMG。だが総責任者のトト・ヴォルフは、抑えが利かなくなる心配はないと自信たっぷりだ。
20日(木)に行われたFIAの(国際自動車連盟)の公式記者会見でニコ・ロズベルグは、しきりに心理戦を仕掛けていた。あくまで「クリーンな」戦いにとどめようと、ライバルのルイス・ハミルトンにクギを刺したほどだ。
両者の差は17ポイントで、リードするのはハミルトン。23日(日)の決勝戦で2位に入れば彼の勝ちだ。ロズベルグが「心理戦」を駆使するのも無理はない。もっとも、カメラマンに向かって二人が握手する際にためらう様子を見せたのはハミルトンの方だった。会場には微妙な空気が流れていた。
「負けてすべてを失うのは彼だ。僕は追いかける立場だからね」とロズベルグ。
二週間前のF1第18戦ブラジルGP決勝、ハミルトンはスピンを喫した。プレッシャーでもかかっていたのか。最終戦では、チームの作戦会議を利用してでもハミルトンを「ナーバスな」状態に置いてみせるとロズベルグはいう。
「それが今週末、僕の仕事だよ」と、20日(木)、母国ドイツの報道陣に語ったロズベルグ。「同チームだから、互いにあまり離れるわけにはいかない。そこが狙い目さ」
また、その口ぶりから、今週末のロズベルグはいつもの手順を踏まずに、もっとセットアップを冒険しそうだ。というのも、昨年のアブダビは「彼(ハミルトン)にとって一年でもっとも振るわないレース」だったのだ。
20日(木)の二人を比べて、ロズベルグの意欲が勝っていたと見る関係者は多い。ハミルトンは一見リラックスしているかのように振る舞ったが、質問の答えはあくまでも短く、おとなしい印象だった。
「プレッシャーは何も感じない」とハミルトン。「二十年もレースをしていれば、心構えはバッチリさ」
「かつて同じ状況に置かれたときは、確かに緊張した。でも今はクリスマス前の子どもになった気分だよ」
そのことばをう呑みにする者はいないだろうが、2008年にハミルトンとタイトルを争ったフェリペ・マッサ(ウィリアムズ)は、リラックスすることがいかに重要か分かっている。
「ビクビクしていたら、たちまちコンマ何秒も失ってしまう」とマッサ。
「ハミルトンの条件はあくまで単純だが、注意する必要はあるね。ルイスの場合、常にうまく行くとは限らない。果たしてどんな結末を迎えるのかな」
ヴォルフは、あくまで二人を平等に扱うとしている。フェアにタイトルを決めて欲しい。それが彼の、ただひとつの願いだ。
アイルトン・セナとアラン・プロストの例(1989年と90年のF1日本GP)も過去にあるが、その心配はないとヴォルフはいう。
彼はスペイン『Marca(マルカ)』紙に、次のように話す。「二人とも好人物だ。裏表はないよ」
またドイツ『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』誌は、ヴォルフのこんなコメントを紹介している。「ニコは優勝が絶対条件だ。ルイスも勝って(タイトルを)取りたいに違いない。タフなレースになるだろう」
「だが、行き過ぎてお互いにぶつけ合うようなことにはならない。互いに失うものが大きすぎる」