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【ル・マン完走までの物語】中野信治、数々のドラマを乗り越えル・マン24時間を完走

2014年06月16日(月)10:12 am

中野信治(43)が、WECシーズン開幕時からル・マン24時間までの信じられないような数々の出来事を乗り越え、ル・マン24時間を完走した。

このストーリーを知らない人がリザルトだけを見れば、優勝でもない、総合29位・クラス8位完走にしか見えないだろう。

しかし、今回のル・マン24時間完走までの中野信治に起こった出来事を時系列で見ていると、
「人生にどんな辛いことが起こっても、決して諦めなければ奇跡は起きる」
そんな力強いひとりの人間からのメッセージを世界中の人々に示してくれたようにも感じるはずだ。

これを見れば、中野がただ走るのが好きなだけのレーシングドライバーではなく、なぜ今でも多くのスポンサーに愛され支援されているのかがよくわかるだろう。

■諦めない男、中野信治は、レースを通じて何かのメッセージを伝えようとしている。

ここで中野信治本人のTwitterやホームページへアップされたコメントを紹介しよう。
いったいどんなことが中野信治に起こっていたのか?まとめてみました。

■2月20日:世界三大レース「ルマン24時間耐久レース」と「WEC世界耐久選手権」への参戦が決定しました。(http://www.c-shinji.com/より)

中野に突然のチャンス到来!
参戦が決定したと発表された時、中野信治本人も「自分でも信じられない」と喜びを表現しており、すでに渡英に向けて準備を進めていることを告白してくれた。

「信じられない。この年齢になって世界選手権を戦うチャンスと巡り合えるとは…。
継続することの意味、そして信じ続けることの尊さを改めて感じています。
今年8回目を迎えるルマン24への挑戦とF1以来、実に16年振りとなる世界選手権への挑戦をイギリスの強豪チームであるミレニアムレーシングと共に戦えることを誇りに思っております。
今年43歳を迎える僕ですが、16年前と変わらぬ信念のもと全身全霊を傾けて戦う所存です。
今回この素晴らしいチャンスをくれたミレニアムレーシングと僕を支えてくれている沢山の仲間達、そしてファンの皆様にこの場を借りて心から御礼を申し上げます。」

■4月17日:7年ぶりのマニクールで想うこと(http://www.c-shinji.com/より)
開幕前テストのため、F1時代に住んでいたマニクールサーキットを久々に訪れた時は、気合い十分。

「明日からはいよいよ合同テストが始まる!」

■4月18日:Tomorrow is another day.(http://www.c-shinji.com/より)
チャンスも突然なら、悲劇も突然やってきた・・・。信じられない状況をポジティブに切り替えようとしているが、普通は心が折れてしまいそうな出来事である。

「レースウィークの金曜日になってまさかこのような日記を書いているとは誰が予想しえただろう。
今回開幕戦にチームが参戦を見合わせると言う知らせを受けたのはレースウィークに入った水曜日だった。
まさに青天の霹靂である。」

「恐らく今僕は試されているのだろう。
正直何を試されているのかは分からない。」

「今回のような出来事は僕のレース人生においては初めての経験だ。
ただピンチはその人の思考の角度をほんの少し変えるだけでチャンスになり得ることを学んできた。
人生万時塞翁が馬。
勝負はここからだ。」

■4月30日:WEC世界耐久選手権ベルギー戦欠場のお知らせ(http://www.c-shinji.com/より)
辛く苦しい状況でも、誰も責めることなく、努力し続ける姿勢が中野信治だ。

「開幕前のテストでは最速タイムを叩き出し準備を順調進めてこれていただけに現在の状況は残念でなりません。」

「起きてしまったことはもう変えられませんが、誰かの責任にするとか誰かを責めることには何の意味も感じません。
僕自身も可能性の灯がある限り、最後の最後まで諦めずに精一杯努力を続けます。
それが僕のスタイルであり信念なので。」

■5月7日:Do the likeliest, and God will do the best(http://www.c-shinji.com/より)
わずかな可能性にかけてイギリス滞在を続ける中野に、さらに厳しい試練が次々と襲う。しかし、その度にポジティブに考え、決して諦めない。

「スパへ参戦出来ないことが決まってからもう直ぐ1週間が経とうとしている。
先週の頭には更に厳しい知らせを聞くことになった。
ルマン24参戦の権利をチームが失ってしまったのだ。
チームのメインスポンサーからの入金の遅延によりエントリーに必要な手続きを完了することが出来なかったのが理由だ。
開幕戦シルバーストーン直前の青天の霹靂のような出来事から更に難しい状況を突きつけられている。」

「この1週間僕は考え始めるとどうしようもないくらい重くなる頭を、出来るだけ解放するべく時間を過ごすようにしてきた。
こちらに来てから徹底的に続けてきたトレーニングを淡々と続けることも忘れてはいない。
ルマン24参戦に向けては現段階でははっきりとした答えはない。
ただ一つだけ言えるのは、まだ諦めていないと言うことだけだ。
人事を尽くして天命を待ってみようと思う。」

■5月13日:Learn from yesterday Live for today Hope for tomorrow(http://www.c-shinji.com/より)
中野の苦悩は続くが、「偶然の幸運」を信じて前へ進む。それが中野信治だ。

「第2戦のスパへの参戦が叶わないことを知った時は正直茫然自失だった。
その日だけはイギリスに来てからそれまで1日も休むことなく続けてきたトレーニングにも行けなくなるくらい全身から力が抜けてしまっていた。
張り詰めていた緊張感が変な形で切れてしまったような感じだろうか。
前向きに物事を考えろと言われてもそうそう簡単にはいかない。

しかも立て続けにこのような出来事が起こると更にそれが難しくなる。
本当にピンチはチャンスなのだろうか?
この一ヶ月近くは信じられないくらい色々な事を考えさせられた。
何故こんなことが起こっているのか?
何故?
?????????
どれだけの事柄が頭の中を駆け巡ったことか...。」

「セレンディピティ。
この言葉はいつもポジティブに思える出来事が起こった時にだけ使うようにしていた。
偶然の幸運。
僕の大好きな言葉だ。
この言葉には更に深い意味があるような気がしてきた...。」

「今回のイギリスでの2ヶ月間は僕にとっては原点回帰の時間になったとも思っている。
既に僕の中からネガティブな記憶は消えている。
いくら考えたところで過去は変えられない。
それよりもその時間を未来を創造することに使うべきなのだろう。」

「43歳になった僕が見たイギリスはあの頃から何も変わっていない。
でもほんの少し違和感がある。
18歳の時に初めて単身イギリスに渡った頃から比べるとほんの少しだけ成長した僕がそこにいた。」

■6月3日:DUM SPIRO SPERO(http://www.c-shinji.com/より)
希望に満ちていた3月。奈落の底に突き落とされた4月。
先の見えない5月。そして希望の光が見えた6月。
いったい中野はここから何を持ち帰ることができるのだろうか?

「希望に満ち溢れた若者のような心持で久しぶりのイギリスに降り立ったのが3月の半ばだった。
WEC参戦という素晴らしい機会を得られた満足感、そして緊張感、それら全ての感情が僕のアドレナリンを大いに刺激していた。
それが今現在2014年の6月を少しばかり複雑な心境で迎えている。」

「そんな最高のスタートから一転、奈落の底に突き落とされたのは開幕直前の水曜日だった。
僕が所属するチーム、ミレニアムレーシングが抱えている問題により、急遽レースへの参戦を取りやめることになったのだ。
開幕2レースを欠場するばかりか、この影響でルマン24へのエントリーも取り消されることになった。
まさに泣きっ面に蜂とはこのことだ。」

「いずれにしても僕は現地に行かなければと思っていたのだが、ぎりぎりになってチームタイサンからテストデーを走らないかとのオファーを頂いた。」

「そして今こうして僕はルマンにいる。
僕は今年、このルマンから何を持ち帰られるだろうか・・・。」

■6月9日:2014年ルマン24時間耐久レースへの参戦が正式に決定いたしました(http://www.c-shinji.com/より)
ようやく発表できたル・マン24時間参戦。中野の信念が通じたのだろう。チーム・タイサンの千葉氏も粋な男だ。

「6月1日のテストデーで僕がマシンを走らせたチームタイサンから急遽ルマン24参戦のオファーを頂き、99パーセント不可能だと思っていたルマン24参戦が実現する事になりました!
最後の最後での大逆転に正直僕自身も信じられない気持ちです…。
ルマン参戦への一縷の可能性に賭けてルマンに滞在していた僕にとってはこのオファーを断る理由もなく、チーム・タイサンフェラーリと共に今年のルマン24を戦うことを決めた次第です。
元々参戦予定であったチーム、クラスではなく少し形は変わりますが、それでもこうして苦悩の末、最後の最後に手に入れたチャンス、チームと力を合わせて全力で戦う所存です。応援のほどよろしくお願い致します。
いよいよ僕のルマン24が始まります!」

■6月13日:予選(http://www.c-shinji.com/より)
幾多の出来事を乗り越え、ようやく迎えたル・マン24時間の予選。しかし、走りたい気持ちを抑え、チームプレーに徹する中野。その先にあるものは・・・。

「2人のチームメートと僕のタイム差が大きい為、24時間の決勝に向けては彼らがマシンに慣れる事が最優先だ。
GTのマシンの経験が殆どない僕も走行時間を増やしたいところだが、やはり大切なのはチームメートが確実に走れる環境を整えることなのでそこは僕が我慢するしかない。」

「参戦チームの中で唯一バージョンアップしていないマシンで他の最新マシン達と互角に戦うのは難しいのだが、今年こうしてぎりぎりのタイミングでルマンを戦えるチャンスをくれたチームの為にも引き続き与えられた条件の中で最高の状態を引き出すべく集中したいと思う。」

■6月14日:レース前日(Twitter更新 @shinjinakano24
レース前日、中野の頭の中にはこれまでの苦労が浮かんでいたのだろうか?それとも翌日のレースのことなのか、それともモータースポーツ文化についてだろうか。

「やっぱりなかなか寝れない。(笑)今日の写真を見てたらすごく気に入ったのがあったのでツイートしてみました。こうやって小さい頃から自然にモータースポーツに触れながら文化が育っていくんですね。子供たちの前に出てくる自然な笑顔が本当にいいね。」

■6月15日:レーススタート(Twitter更新 @shinjinakano24
とうとう始まった中野のル・マン24時間。台数が接近しているスタート直後、そして雨が降る難しい天候を無事乗り切った中野信治。マシンのセッティング能力と安定した走りはさすがだ。

「スタートドライバーをつとめました。2スティント目の途中から突如雨が降り出し、数台の車がクラッシュしてセーフティーカーランが続きました。2時間半が経過したところでマーティンに交代。いまは彼が走行中です。ずっと安定していた天気が決勝日になって荒れ出した。やっぱりルマンは何かあるね。」

■6月15日:レース中(Twitter更新 @shinjinakano24
「2回目の走行を終えました。今回も2スティント、2時間の走行でしたが車はトラブルもなく順調に周回を重ねています。昨年は夜の走行が出来なかったので久しぶりに夜のルマンです。この時間帯は本当に何も見えない。結構しびれる。次の走行は恐らく夜中の3時半ぐらいなので少し休みます。」

■6月15日:レース中(Twitter更新 @shinjinakano24
「3回目のスティントが終わりました。車のほうは特にトラブルなく引き続き順調に走っています。しいて言えばドリンクボトルが壊れてしまって走行中の水分補給が出来なかったぐらいかな。ようやく空が白み始めて来ました。ルマンのサーキットで迎える朝は格別だね。」

■6月15日:レース中(Twitter更新 @shinjinakano24
「僕の最終スティントを走り終えました。あとはチームメイトが無事に走り切るのを見守るだけです。このスティントで今回の僕のルマンでのベストタイムを出すことが出来て、いい内容の最終スティントになりました。あと2時間半!」

■6月15日:レース完走!(Twitter更新 @shinjinakano24
Twitterへ掲載した中野のコメント。
「長い長いレースが終了しました。結果は無事クラス8位完走!スタート前のドタバタを考えると望外の結果だと思います。素晴らしいチャンスを下さったチームタイサンと応援してくれた全ての皆さんに感謝いたします!取り急ぎ。」

いかがでしたか?苦境を決して諦めず、わずかな希望を信じ続けた男のショートストーリー。
F1モナコGP、インディ500、そしてル・マン24時間。世界の猛者相手に、世界3大レースを「戦わせてもらってきた」という中野信治。

見た目も経歴も華やかだが、実はレース一本でストイック
一見、男が羨む王子様のような容姿とF1まで行けた幸運の持ち主ということで、見た目と経歴だけで判断すると、苦労なんてしたことがなさそうなイメージを持っている人も多いようですが、実は服装にも興味なく、所有するクルマにも興味なく、尋常ではないくらいレースにストイックで、どんな逆境が襲ってきても決して諦めないすごいレジリエンス(再び起き上がる力)の持ち主だ。

中野信治のレース人生を見ていると、
人間の精神力はどこまでも強く優しくなる、
自分を信じて決して諦めるな、
世界に挑戦せよ、
そんなことを口先だけではなく、自らレースを通じて伝えているようにも見えます。

「偶然の幸運」
数々の試練を乗り越えル・マン24時間を完走した中野は、この大好きだという言葉にどんな深い意味を見いだしたのだろうか?

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