タイヤに支配されてきた2013年シーズンだが、タイヤのバースト(破裂)が連発したF1第8戦イギリスGPを受けて、ストライキを口にするドライバーが出てくる事態に陥っている。
性能劣化が激しすぎるとして批判もあった今年のピレリタイヤだが、イギリスGPではフリー走行で1台、決勝レース中に4台が同様のバーストを起こし、難を逃れたドライバーのタイヤにもゆるやかなパンクや明らかなダメージが見られた。
1週間後に行われる次のドイツGP(7月7日決勝)を前に、ドライバーのボイコットまで話題になっている。
「うん、確かにそれも話し合うことになるね」と序盤にバーストしてスピンしたフェリペ・マッサ(フェラーリ)はレース後に話している。マッサは、2009年に前車から脱落した部品がヘルメットに直撃してひん死の重傷を負ったことがある。
今シーズン末でのF1引退を発表したばかりのマーク・ウェバー(レッドブル)も激怒している。
普段、率直な物言いをするウェバーだが「まだ12月じゃないから、静かにしているよ」と話したものの、F1の責任者らはピレリタイヤへの不安を訴えてきたドライバーの言葉を「聞き流して」きたと批判している。
FIA(国際自動車連盟)のレースディレクターであるチャーリー・ホワイティングは、安全面から決勝レースを赤旗中断にする決断を下す一歩手前だったとレース後に認めている。
「そうなったとしても、納得しただろうね」とマッサは話す。
マッサは、いちかばちかに賭けるような状況ではないと言い、特にこれから高速コーナーを持つスパ・フランコルシャン(ベルギーGP/8月25日決勝)やモンツァ(イタリアGP/9月8日決勝)といったサーキットでのレースがあることを懸念している。
「そういったサーキットでこんなことが起きてはならない」とマッサは訴えている。
レース序盤、トップを快走中にやはり突然のタイヤバーストに見舞われて順位を落としたルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)は、レース後にこう語った。「キャリア通して危険を感じたのはあれが初めてだ」
「やめようか(リタイア)と、考えていたくらいだ」
「どうしてこんなひどいタイヤに自分の命を賭けなきゃならないのか分からないね」とハミルトンはイギリスのテレビ局『Sky Sports(スカイ・スポーツ)』に語っている。
メルセデスAMGの非常勤会長を務める3回F1チャンピオンのニキ・ラウダは、1976年にレース中の事故で大やけどを負い、生死の境をさまよったことがある。「もしあのトレッド(吹き飛んだタイヤ表面)が顔に直撃したら、首が折れるだろう」とラウダは話している。
FIA会長ジャン・トッドもイギリスGPが行われたシルバーストンに来ていた。ドイツの『Bild(ビルト)』紙によると、決勝後にトッドはホワイティングとピレリを緊急会議に招集したという。
トッドは、3日(水)にピレリとチームを集めて公式の緊急会議を持つことを決めている。
「われわれの最優先事項はドライバーの安全だ」とトッドは語っている。「正しい決断をしなければならないが、感情的な反応はいけない」とトッドはフランスのテレビ局『Canal Plus(カナル・プラス)』に話した。
解決策として、レッドブルなどは2012年のタイヤに戻すことを提案している。
「そうなるかは分からない」とメルセデスのモータースポーツ責任者トト・ヴォルフも話している。「あるいは構造を変えられるのかどうかも不明だが、非常に危険であることは事実だ」
シルバーストンの縁石にバーストの原因があるという説もあるが、ラウダとフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)は否定している。
「縁石はどのサーキットにもあり、どのドライバーもそこに乗る」とラウダは一蹴した。
「タイヤが縁石に耐えられないのなら、縁石を変えるんじゃない。タイヤを変えるんだ」とラウダはドイツのテレビ局『RTL』で語っている。
アロンソも同じ考えだ。「縁石にはまったく問題ないと思う」
今シーズンはタイヤ表面のトレッドがはがれるデラミネーションという現象が何度か起きていたため、ピレリはそれを修正するために内部のスチールベルトをケブラー製のものに変える提案をしていた。
しかし、ロータスやフォース・インディアが反対したため、変更は行われていない。デラミネーションについてピレリは安全上の問題というより見た目の問題だと説明していたためだ。
しかし、イギリスGP後は状況が変わった。今や安全性、危険性、迫り来る死といった言葉が使われている。
「タイヤが安全でないとピレリが言うなら、われわれは必要な変更の導入を拒否しない」とロータスのトラックサイドオペレーションズディレクターであるアラン・パーメインはドイツの『Auto Motor und Sport(アウト・モートア・ウント・シュポルト)』に話している。
また、ロータスのチーム代表エリック・ブーリエも同様に、『Canal Plus(カナル・プラス)』にこう語った。「今は安全について話しているのだから、状況は違う」
「われわれは、みんなでテーブルを囲み、ピレリを手伝うためにできることはすべて行う」
最大の問題は、予定されているFIAの会議の2日後にはドイツGPのフリー走行が始まるという点だ。
「ドイツに向けては何もできない」とラウダも認めている。
しかし、ドイツGPの翌週にシルバーストンで開催される若手ドライバーテストは違う。ブラジルの『O Estado de S.Paulo(オ・エスタード・ジ・サンパウロ)』紙によると、このテストについて、レースドライバーの参加も認めて本格的なタイヤの開発テストにすることを数チームが提案しているという。
「今後数日のうちに検討すべきアイデアだ」とフェラーリのチーム代表ステファノ・ドメニカリは語っている。