その瞬間、富士は歓喜に包まれた。
世界耐久選手権(WEC)富士6時間耐久レースの決勝が14日(日)行われ、王者アウディに挑むホームレースのトヨタが、日本のファンの前で見事ハイブリッド対決に勝利した。
午前11時、秋晴れの中、ポールポジションからスタートしたトヨタは、途中のピットインや周回遅れなどの関係でアウディと手に汗握る1位争いを繰り広げていた。
レースが進むにつれ、富士スピードウェイ上空には分厚い雲が垂れ込め、チームは雨雲レーダーをチェックするなど先の読めない展開も予想された。ところどころで小雨は降ったが、路面はぬれることなくドライタイヤのままレースは進み、スタートから6時間後となる17時のチェッカーフラッグでは、中嶋一貴が2位アウディ1号車と11.223秒差という白熱の接戦を逃げ切り、見事勝利した。トヨタ・レーシングは2戦前のブラジルで初優勝を飾っており、WECでの2勝目を飾った。中嶋は、WECブラジル戦と日程が重なっていた日本でのレース出場を優先したために欠場しており、中嶋個人にとってはうれしいWEC初優勝となった。
王者アウディは淡々と走っていたわけではなく、勝利を貪欲(どんよく)に狙っていた。トップを走るトヨタを抜くために賭けに出たのだ。トヨタよりもタイヤに厳しいアウディだが、ピットインでのタイヤ交換回数を減らす戦略をとり、ピットストップでのロスタイムを最大限抑えて勝負に出たが、トヨタも見事な戦略と走りで応戦し、最終的にトップでチェッカーを受けた。
中嶋が一番心配していたのは下位クラスの追い抜きだ。WECは4クラス混走で耐久レースを行うため、途中、何度も下位クラスの追い抜きシーンがある。最高峰のLMP1クラスに参戦するトヨタ、アウディともに追い抜きで危ないシーンが何度もあった。ぶつかってパーツが飛んだり、コースアウトやスピンが多発するレースとなり、見ている方にとっても、チームにとっても忙しいレース展開だった。中嶋は「(追い抜きでぶつかってチャンスを逃すような)つまらないミスをしなければ勝てる」と語っていた通り、手に汗握る熱戦が繰り広げられた。
木下美明チーム代表が「最初から最後まで全開で行く」と言っていたように、退屈になりがちな耐久レースとは思えぬ白熱のレース展開を繰り広げ、富士スピードウェイに駆け付けた3万2,000人のファンも終始興奮していた。
またLMP2クラスでは、中野信治が「勝ちを狙いたい」と公言していた通り、世界耐久選手権で見事な優勝を飾った。F1、インディ、ル・マン24時間と世界三大レースに参戦し続け、「最後まであきらめなかった者が勝つと信じている。世界へ挑戦し続け、自分の肌で感じたことを次世代の子どもたちにつないでいきたい」とレース前に語っていた中野が、日本のファンの前でつかんだ世界選手権での勝利。「1分、1秒を無駄にせず、全力で取り組まないとレースは勝てない」とレース前までの厳しい表情から一変、表彰台でシャンパンファイトをしながら最高の笑顔を見せてくれた。
急ぎ参戦が決定した佐藤琢磨のOak Racingは、強豪トヨタとアウディなどがミシュランタイヤを履いて参戦するLMP1クラスで、唯一ダンロップタイヤを履き、チームもHondaとのパートナーシップ初戦ということもあり、シフトダウン時にギアがロックしてしまうなどいくつかのトラブルを抱えながらの我慢の走行となった。しかし、まずはひとつの目標であった完走を果たし8位でゴールしている。
唯一のWEC女性ドライバーで、唯一の日本人フル参戦ドライバー井原慶子は、LMP2クラスで6位完走している。途中、左のミラーが脱落するなど視認性確保が難しい状況で走行し、強烈なGにより車内の部品も外れるなどいくつものトラブルを乗り越え、終始安定したラップタイムで走行。追い抜き時に軽い接触などはあったが、大きな破損なく完走している。
走行直後、緊張から解放された井原は、「日本のファンの前で走れて、火曜日夜まで行っていたスポンサー探しの疲れも吹っ飛び、モチベーション高く走ることができました」とチームメートとジョークを言い合う余裕を見せながら笑顔で語り、日本のファンやスポンサーへ感謝を表していた。
WEC富士6時間耐久レース決勝の主要なチーム・ドライバーの結果は以下の通り。順位は各クラスの順位、タイム横の括弧内はトップタイムからの差。
▼LMP1クラス(全8台)
▼LMGTE Proクラス(全4台)
1. 77 Team Felbermayr-Proton(M.Lieb/R.Lietz)Porsche 911 RSR(997) ミシュラン 207周 6:02'08.551
2. 51 AF Corse(G.フィジケラ/G.ブルーニ)Ferrari F458 Italia ミシュラン 206周 6:00'51.596(+1Laps)
3. 97 Aston Martin Racing(S.Mucke/D.Turner)Aston Martin Vantage V8 ミシュラン 206周 6:01'30.706(+1Laps)
4. 71 AF Corse(O.Beretta/A.Bertolini)Ferrari F458 Italia ミシュラン 206周 6:02'20.305(+1Laps)
▼LMGTE Amクラス(全5台)
1. 50 Larbre Competition(P.Bornhauser/J.Canal/P.ラミー) Chevrolet Corvette C6-ZR1 ミシュラン 204周 6:02'27.349
2. 57 Krohn Racing(T.Krohn/N.Jonsson/M.Rugolo) Ferrari F458 Italia ミシュラン 203周 6:02'17.553(+1Laps)
3. 88 Team Felbermayr-Proton(C.Ried/G.Roda/P.Ruberti)Porsche 911 RSR(997) ミシュラン 202周 6:02'09.119(+2Laps)
4. 70 Larbre Competition(J.Belloc/C.Bourret/P.Gibon) Chevrolet Corvette C6-ZR1 ミシュラン 199周 6:01'26.234(+5Laps)
5. 55 JWA-Avila(J.Camathias/小林賢二/P.Daniels)Porsche 911 RSR(997) ピレリ 196周 6:00'48.756(+8Laps)