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佐藤琢磨、初優勝が見えた!=インディ第11戦

2012年07月25日(水)12:28 pm

インディカー・シリーズ第11戦エドモントン決勝で、日本人のインディ・ドライバーとして歴代最上位タイとなる2位表彰台にあがったレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨。昨年、ポールポジションを獲得したこの地は、琢磨にとって相性の良い場所である。今季、決勝は3番手からスタートし、競争力にあるクルマで終始トップ争いにからむ走りを披露。残念ながら2位という結果に終わったが、優勝したエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)との差はたった0.8367秒だった。確実に勝利の階段をあがっている琢磨、次は優勝トロフィーを持って帰りたいところだ。今季2度目の表彰台に立った琢磨がエドモントンでのレースを振り返った。以下、モータジャーナリストのマーカス・シモンズによるレースレポートである。

ついにやった! 佐藤琢磨がIZODインディカー・シリーズで2度目の表彰台に上ったのはエドモントンでのこと。しかも、今回はシーズン序盤のサンパウロで得た3位よりもひとつうえにあたる2位を、空港の一部を利用したサーキットで獲得したのである。

それにも増してよかったのは、今回、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダと琢磨の組み合わせが本当にコンペティティブだったことにある。琢磨は、コーションが一度も出なかった今回のレース中、ずっとトップグループの一員として走り、チェッカードフラッグが振り下ろされるまでエリオ・カストロネベスにプレッシャーを与え続け、ブラジル人ドライバーとわずか0.8367秒差でフィニッシュしたのだ。

コースレイアウトはともかく、いたるところがバンピーでまったく息を抜くひまのないこのサーキットを、琢磨はまるで飛ぶように駆け抜けていった。草原がどこまでも広がるカナダ・アルバータ州に建つこのコースは、これまでも琢磨との相性がいつもよかった。スーパーアグリからF1に参戦していた当時、琢磨が驚くべきパフォーマンスを披露したのはアルバータよりはるか東のケベック州でのことだったが、ゲンがいいことに関してはエドモントンも負けてはいなかったのである。

「実際に走り始めてみるまで、自分たちがどのくらいコンペティティブかは読めませんでした」と琢磨。「でも、できれば去年と同じくらいコンペティティブだったらいいと期待していました。ここまでのレースを振り返ってみると、僕たちのチームは特にバンピーなストリートサーキットを得意としてきました。現在のエドモントンは、ヘビーブレーキを必要とするとてもスムーズな新しいセクションと、ものすごくバンピーな古いセクションを混ぜ合わせたレイアウトとなっているので、おそらく上手くいくだろうと考えていました」

「プラクティスは取り立てていいところがなかったものの、まずまずの滑り出しでした。僕たちのバランスはまるで的外れということもありませんでしたが、純粋な意味でのスピードとグリップレベルはもう少し良くなって欲しいと願っていました。順位はトップ10に近いところにいたものの、完全に満足というわけではありませんでした。このコースが初めて用いられたのは2011年のことで、したがってチームは新しいレイアウトでレースをした経験がまだなく、したがってギアレシオや車高など、まずは基本的なセットアップから手をつけなければいけませんでした。ただし、状況がよくなっていくことはわかっていたので、僕はあまり心配していませんでした」

「土曜日のプラクティスでは初日からの進歩が確認されたので、まだ未完成のセットアップを引き続き仕上げていくことにしました。これが予選直前には“それなりによく”なっていたので、あとは、予選まで試すことができない“レッドタイヤ”を履いたときの仕上がり具合がどうなるかにかかっていました」

結果的に予選でのパフォーマンスは素晴らしいものになった。琢磨は予選グループ3番手となり、予選第2セグメントへの進出を決めた。このセッションはウェットとなり、琢磨は2番手以下をなんと0.5秒も引き離す素晴らしいタイムを残した。琢磨がキャリアの初期をイギリスで過ごしたことを、皆さんお忘れではなかろう! そして、ほぼドライとなったファイアストン・ファストシックス・シュートアウトでは4番手となったが、ライアン・ハンター-レイにペナルティが科せられたため、琢磨は3番グリッドからスタートすることになった。昨年、このサーキットでポールポジションを獲得して以来の好ポジションである。

「雨は大好きです!」と琢磨。「ヘルメットバイザーに雨粒が落ちてきたとき、僕はニヤリとしました。このようなコンディションで走ったドライバーはひとりもなく、僕らは未知の領域に足を踏み入れようとしていたのです。サーキットの一部はとても滑りやすかったものの、僕にはまったく問題はなく、楽しんで走ることができました。セッションのほとんどで他のドライバーを1秒近く引き離していましたが、次第にコースが乾き始めたため、最後の2、3周で差を詰められることになりました」

「本当は、そのまま雨が降り続いてくれればよかったのですが、予選第3セグメントは期待したよりも路面がかなり乾いてしまいました。Q3を迎えるまでの5分間でできることはかなり限られているので、僕たちは引き続きウェットセットアップを施したまま、第1セグメントで使用したオルタネート・タイヤを履くことにしました。でも、できればもう少しだけスピードが欲しかった。僕は全力を投じましたが、充分に速いとは言い切れませんでした」

決勝レースでは、アレックス・タグリアーニが密かに忍び寄り、ターン1への進入で琢磨を追い抜いていったので、3番手のポジションはあまり長続きしなかった。けれども、琢磨はすぐさま反撃を開始。ヘアピンコーナーとなるターン5の進入でライアン・ブリスコーのインサイドを鋭くつくと、3番手のポジションを取り戻したのである。これ以降、琢磨はトップのタグリアーニと2番手のダリオ・フランキッティを最初のピットストップまで追い続けることになったが、それまでの間、3台の間隔は2秒以内に収まっていた。

「タグリアーニはすばらしいスタートを切りましたね! 他のドライバーも、本来のアクセレレーション・ポイントより早めにダッシュし始めたのに対し、僕はすぐにこれに対抗することができず、平均的なスタートとなりました。けれども、ターン1を過ぎると僕がライアンに襲いかかり、ターン5の進入で前に出ました」

「イエローが出れば状況は少し変わるものの、2ストップで走り切るには燃費を稼がないといけないことはわかっていました。このため、最初の数周でレースは落ち着き、僕はダリオに続いて走ることに満足していました。そして燃費走行へと移って行きます。燃費走行という言葉はあまりエキサイティングに響かないかもしれませんが、ブレーキングやコーナリングには相当気を遣わなければいけないので、決して簡単ではありません。全くもってのんびり走ることとは異なり、高い速度を維持したまま1インチたりとも妥協するわけにはいきませんし、それを毎周、完璧にこなさなければいけないのです。僕は手順に従ってダリオを追走していましたが、チームは僕の燃費にとても満足していました。すべては、どれだけピットストップを引き延ばせるかにかかっていたのです。ピット作業を行なうとき、トップ4台は同時にピットロードに飛び込みました。これで一旦リセットし、また走り始めます。そう、最初からすべてやり直しです!」

このピットストップまでカストロネベスは4番手につけていたが、ここで琢磨がファイアストンのブラックタイヤを履いたのに対し、ブラジル人ドライバーはオルタネートのレッドを装着。カストロネベスは素早く琢磨を攻略すると、続いてフランキッティをパスし、残るはタグリアーニただひとりとなった。そして琢磨は、最高のエンターテイメントを繰り広げるトップ3の直後につけていた。

ここで、レースは一旦、小康状態となる。「このスティントは、燃料をセーブしていたダリオが徐々にスライドを始めるという、とても興味深いスティントになりました」と琢磨。「僕は、きっとチャンスがやってくるだろうと思っていました。そして、それがやってきたとき、僕はプッシュ・トゥ・パスとスリップストリームを最大限生かして追いつき、今回はインディ500のときとは異なり(!)2台並んでターン1を通過することに成功しました。」

第2スティント半ばの37周目、琢磨は次第にタグリアーニとカストロネベスを追い詰めていく。そして勝敗を決するかもしれない2回目のピットストップが近づいたとき、3台の間隔は1.5秒と離れていなかった。

カストロネベスがピットストップを行なったのは51周目。次の周、タグリアーニと琢磨がこれに続いた。ふたりはブラジル人ドライバーの直後でコースイン。その2周後、琢磨はターン5でカナダ人ドライバーのインサイドに飛び込み、2番手に浮上する。あとはカストロネベスを追うだけだ。

「エリオのピットストップで、ペンスキーのスタッフは素晴らしい仕事をしました」と琢磨。「タグと僕がピットに飛び込んでからコースに戻ると、僕たちはエリオと並んでターン1に進入する形になりました。この時点で、彼の優勝は決まったも同然となりました。アレックスを仕留めると、続いてエリオに照準を合わせましたが、このとき、エド・カーペンターの行為には本当に腹が立ちました。彼はエリオにはすぐに進路を譲ったのに、僕が追い越そうとするとひどいブロックをしてきたのです。これでタイムをロスしてしましたが、そこからエリオを再び追い上げることができたのは、強い自信に結びつきました」

「僕たちのペースは速かったけれど、エリオはタイヤとプッシュ・トゥ・パスを温存し、レースの流れを掌握していました。僕のプッシュ・トゥ・パスは120秒中残り50秒となっていましたが、彼はまだ70秒も残していたのです」

「残り15周でエリオに追いついてから、僕たちは予選アタックのような走りでフィニッシュまで走り切りました。エリオは僕を引き離すのにプッシュ・トゥ・パスを使ったり、僕が使うとこれに対抗してプッシュ・トゥ・パスを利用していました。このバトルは最高に面白かったけれど、スピードの点では彼にはかないませんでした。僕は全力を尽くしましたが、とても難しい状況でした。僕は慎重にプッシュ・トゥ・パスを使ったものの、それでも最後には使い切ってしまいました。大切なのは、彼にプレッシャーを与え続け、バックマーカーに追いついたりミスを犯したりするのを待つことです。けれども、彼は一度もミスを犯しませんでした」

「とにかく素晴らしいバトルでした。僕にとってはやや残念でしたが、見事な働きぶりをしてくれたチームのことを思うととても嬉しい気持ちになります。インディ500以降、僕たちは何度か不運な状況に陥りましたが、再び表彰台に上ることができたので、チームのモチベーションを高め、自信を与えるには最高の結果だったと思います」

さて、次戦は? 8月5日にミドオハイオで開催される。ここは琢磨が得意とするサーキットであるというだけでなく、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが本拠を構える場所でもある。「ボビー・レイホールのベースはオハイオ州のコロンバスにあるので、きっとたくさんの友人が集まってパーティをすることになります。だから、僕たちにとってはとても大切な一戦となります。しかも、今週はここでテストを行なう予定になっているのも嬉しいことです。シーズン前のテストを除くと、ここまでロードコースではまともなテストをまだ1度もしていません。しかも、僕のエンジニアは元スーパーアグリのジェリー・ヒューズで、インディカーの世界ではまだ“新人”です。おまけに、チームはここ数年、フル参戦をしたことがなかったので、ライバルたちに追いつく素晴らしい機会になるでしょうし、間違いなく多くを学ぶことになるでしょう。このテストはレースに向けたとても大切な準備になるので、いまは好天に恵まれることを祈るばかりです」

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