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成層圏からフリーフォール Red Bull Stratos、4つの世界記録更新を狙う

2012年06月09日(土)22:53 pm

この夏、フェリックス・バウムガートナー氏は人類初のフリーフォールで音速突破に挑み、新たな歴史を作り上げようとしている。これに伴って、レッドブル・ストラトスの医療ディレクター、ジョナサン・クラーク氏は確実なミッションの成功とパイロットの安全な帰還に必要な準備の詳細について明らかにした。

120,000 フィート(36,576 m)の地点でヘリウムバルーンから記録破りのジャンプに挑む。同時に、医療科学の進展に役立つ貴重なデータの収集も行われる。クラーク氏自身はNASA で過去6 回スペースシャトル乗組員の医官を務めた経歴を持つ。彼によれば、チームはミッション中の危険な全段階で考えられ得る肉体への影響について調査研究を進めており、とりわけバウムガートナー氏の体が音速の壁を突破し、大気が濃くなるために亜音速へと急激に減速する地点に重点を置いている。チームの計算によれば、バウムガートナー氏は約30 秒間で停止状態から約時速700 マイル(時速1,125 km)まで加速することになる。このプロジェクトには解決すべき課題が無数にあり、このことが、アメリカ空軍のジョセフ・キッティンガー退役大佐が打ち立てた最高高度102,800 フィート(31,333 m)からのフリーフォールの記録が52 年の間破られていない一因となっている。

ベイラー医科大学とテキサス大学医学部でも教鞭を取るこの医療ディレクターは、バウムガートナー氏の挑戦を個人的に高く評価する。クラーク氏自身はアメリカ特殊部隊のパラシュート兵で、航空機や宇宙船の安全性に対して情熱を傾け、スペースシャトル「コロンビア」惨事の調査チームに参加した経歴を持つ。「私たちはフェリックスを無事に帰還させ、装備、手順、そして彼の生理的反応について得たデータを共有したいと考えています。そうすることによって、近い将来、官民の宇宙プログラムからも安全に帰還すること可能となります」

ミッション中、バウムガートナー氏のデータは厳重に監視され、記録されるが、クラーク氏はバウムガートナー氏にとって過酷な生理的瞬間について次のように説明した。すなわち、上昇中とフリーフォール中には危険な段階が幾つか存在すること、カプセルと55 階建ての高さに相当するバルーンを安全に打ち上げるために、打ち上げ時の風速が時速2.4マイル(時速3.6 km)を超えることがあってはならないこと、さらに、打ち上げてから最初の1,000 フィート(305 m)までは、緊急パラシュートの展開に十分な高度ではないため、バウムガートナー氏の緊急脱出は不可能となることである。

2012 年3 月に実施された71,581 フィート(21,818 m)地点からのテストジャンプでは、バウムガートナー氏は気温が.68℃に落ち込む成層圏レベルを体験した。「彼は120,000 フィートのほぼ宇宙環境を体験することになるでしょう。この環境は真空空間で極寒です。私たちの最近のジャンプでは.68℃に達しました。また、減圧に対して、寒さから身を守るために与圧服を着用する必要があります」とクラーク氏。「彼の両手はフリーフォール中は冷えきっています。時速360 マイルかつ.68℃の風が如何に冷たいか想像してください。前回のテストジャンプで着陸した時は、彼の両手の状態は良好でした。フェリックスのスーツは3.5 psi(ポンド/平方インチ)まで与圧され、これは35,000 フィートの与圧に相当します。ジャンプ中にフェリックスが体験するあらゆる生理的変化は一時的な変化であり、彼が地上に帰還した後に分析することになっています」チームは目下、バウムガートナー氏が落下中も確実に両手を完全使用できるように課題解決に取り組んでいる。

上昇プロセスでは、約63,000 フィート(19,200 m)の地点で、バウムガートナー氏は「アームストロング・ライン(地上空間が終了する境界)」を通過することになる。この地点からは気圧が非常に低くなるため、カプセルや宇宙服の加圧がなければ体液が蒸発してしまう。言い換えると、通常の体温で「沸騰」し始めるのである。「瓶の中の炭酸水を思い描いてください。瓶のふたを開け気圧を開放するまでは炭酸水は透明です。しかし、一旦ふたを開けると、泡が液体から飛び出し、瓶口まで吹き上がってきます。彼の生命維持システムが故障した場合、基本的にこれと似たような事態がフェリクスの血液や細胞内で起き、即座に死に至る可能性があります」とクラーク氏。

落下プロセスでは、科学者たちは制御不能な「フラットスピン」にバウムガートナー氏が陥らないようにあらゆる可能な措置を講じている。「フラットスピンは極めて危険です。フラットスピンで一番心配なことは眼、脳、そして心臓血管系です。回転が体の上部に集中した場合、急激に血液が足元に向かい、意識を失う可能性があります。一方で、回転が体の下部に集中した場合、急激に血液が頭部に向かい、頭部の圧迫感から眼内出血や頭蓋内出血(脳内出血)までの症状を伴う「レッドアウト(赤くらみ)」を引き起こす可能性があります。スピンが長引くほど、危険は増大します」

71,581 フィートからのテストジャンプでは、バウムガートナー氏はそのスカイダイビング技量を駆使して、極めて効果的に安定性をコントロールすることができた。安全装置として、バウムガートナー氏は特別に開発された1 m のパラシュートシステムを装備する。このシステムは、同氏が6 秒以上連続で3.5 G を体験すると、減速用の安定化パラシュートが自動的に展開するようになっている。また、手袋に備え付けられたボタンを押せば、手動でこの減速用の安定化パラシュートを展開することもできる。

バウムガートナー氏自身、リスクの研究に数年を費やし、精神的にも肉体的にも準備を進めてきた。「フリーフォールで音速を突破することはパイオニア的な取り組みであり、パイオニアには危険がつきものです。楽しみのために危険に身をさらす気はありませんが、チャレンジ精神は必要です。これは究極のスカイダイビングなのです」バウムガートナー氏の指導者のアメリカ空軍の退役大佐で、現在の記録保持者であるジョセフ・キッティンガー氏も自分の「子分」の成功を固く信じている。「私は常にフェリックスに3 つのC(confidence:信頼)が重要だと言っています。つまり、『チームを信頼すること』、『装備を信頼すること』、そして『自分を信頼すること』です。現段階でこれらすべてが彼に備わっています」

(レッドブル・プレスリリース)

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