ニキ・ラウダが、レース中の追い抜きを増やす目的で2011年からF1へ導入されたDRS(可変リアウイング/空気抵抗低減システム)に好感を抱いていないと語った。
DRSとは、リアウイングの角度を変えることで一時的に空気抵抗を減らして最高速を伸ばし、追い抜きをしやすくするシステム。フリー走行や予選では自由に使用できるが、前走車の1秒以内に近づいた場合のみ、指定された区間に限って使用可能になる。
DRS導入のほかにも、2011年から採用されたピレリタイヤは性能低下が大きく設計されていたことや、ハイブリッドシステムであるKERS(運動エネルギー回生システム)が復活したことなども影響し、2011年は追い抜きの数が増加。そのため、2012年もDRSの継続使用が決まっており、決勝でDRSを使用できる「DRSゾーン」も増える見込みとなっている。
『BBC』によると、2012年の開幕戦オーストラリアGPが行われるメルボルンでは、DRSの使用可能区間が2つに増やされる予定。そしてヨーロッパGPの舞台バレンシアのように、今季すでに2つのDRSゾーンが設定されたサーキットに関しては、使用可能区間の長さが延長されるとのことだ。
近年のF1では、追い抜きの数が減少しており、レースのだいご味とも言える追い抜きを増加させるため、各チームの技術責任者などが集まったワーキンググループで対策が話し合われていた。その結果として生まれたDRSが一定の成功を収めたとして、マクラーレンの技術責任者パディ・ロウは次のように語った。
「少なくとも、追い抜きを増やすため、クルマの空気力学的な特性を変えるという議論からは、一歩前に進むことができた。これは素晴らしいことだ」
「より確実で、安価かつ簡単であり効果的な上、サーキットに合わせて柔軟に対応できる打開策を見いだすことができた」
ところが、“飛び道具”なしの純粋なレースを望んでいる関係者の間では、DRSを歓迎しない声も多い。追い抜きが簡単になり過ぎてしまい、その価値が薄れ、迫りくるライバルを抑えきるという白熱の場面が減ってしまうという懸念があるのも事実だ。
これに対し、F1の統括団体FIA(国際自動車連盟)の技術担当者チャーリー・ホワイティングは、「物事のいい面と悪い面の両方を受け入れる必要がある」と反論している。
1970年代から1980年代にかけてF1で3度のチャンピオンに輝いたラウダは、オーストリアの『Salzburger Nachrichten(ザルツブルガー・ナッハリヒテン)』紙に対し、DRSは「不愉快」だとコメント、さらにこう続けた。
「レースを楽しめない。ボタン操作によって追い抜きを増やそうというのは、F1にとってよからぬ方向性だ。前を走っているドライバーは、後ろから追い抜きを仕掛けてくるドライバーに対して抵抗ができないじゃないか。スポーツ的な観点でも、いいことではないと思う」
また、摩耗の激しいピレリタイヤの方が2011年のF1を盛り上げることに成功したとし、DRSの不必要性が証明されたとラウダ指摘している。
「ピレリのやり方は容認できる。タイヤのおかげでたくさんの追い抜きを見ることができたんだよ。ドライバーがタイヤの限界を正しく見極めなくちゃいけないんだからね。そして、エンジニアには“タイヤに優しいクルマ”を造るという課題も課された」